「ありがとうございました」 夕方のピークも過ぎた頃、レジに突っ立っていた俺に 「木佐くん、ちょっといい?」 なんやらご機嫌な店長が声をかけてきた。 「実は今日から新しいバイトの子が入ることになってね。ベテランの木佐くんに指導係をお願いしようと思って」 「またですか、店長。俺、あんまり教えるの上手くないって言ってるじゃないですか」 「そんなことないよ。現に君の教え子はちゃんと働いてくれているしね」 「それはあいつらの飲みこみが早いだけで…」 「とにかく、頼んだよ」 ほぼ一方的に話を切り上げた店長は「その子八時から出勤だから宜しくね」と一言言い残し、今日の勤務を終えたためそそくさと自宅へと帰ってしまった。 「ったく、なんで俺ばっかり」 スタッフルームに置いてあるパイプ椅子へと腰掛け、テーブルに置いてあったクッキーを口へと押し込む。仕事中だが、店長が居ない店では何したって怒られない。 キャリア的にも最年長の俺はこうした新人教育を任されることが多くなっていた。ただ、そのせいで自分の仕事が片付かず残業するはめになったりと自分に得な要素がないためやる気が出ないのだ。けど「木佐さん、木佐さん」と後輩に頼られるから悪い気はしない。 (そろそろ来っかなー) 壁にかかっている時計を見ると八時まであと三十分をきっていた。 俺は椅子から立ち上がりこれから来る新人が使うであろうロッカーを確認して、制服であるエプロンを用意していると部屋のドアがノックされた。 「どうぞ」 そういえば男か女か聞き忘れてたな、と今更ながら思い出し、控え目にドアが開くからてっきり女だと期待していたら 「おはようございます。今日からこちらにアルバイトとして入ることになりました、雪名皇です」 俺の目に映ったのは絵本から飛び出してきた様なキラキラした王子様だった。 君が初めて (時が止まったみたいに身惚れたのは) |