―あ、まただ。 「ただの部下ですし、そのうち思いだしますよ」 しつこいぐらいに言われた台詞。 どこか機械的で、何故かしっくりとこなかった。 「すいません、疲れてるみたいで。少し休んできます」 何かを耐えるようにしていた小野寺に心配になって声をかけ、手を伸ばすと体をびくっと震わせ一言言い捨てるようにして病室を出て行った。 個室に残された俺は、やりきれない気持ちに溜息を吐く。 (どうしてこんなにイライラするんだ) 小野寺が絡むと平常心で居られない。 そもそも、ただの上司と部下の関係なら毎日ここへ通ったりしないだろう。 俺が感づいていないと思っているらしいが、それは間違いだ。 あいつが仕事で居ない間、ひとりで色々と考えた。 家族、親戚、親友、どれもわかっている状況と照らしたって合理しない。 もっと近くて、大事な…。 携帯は事故で壊れて使えない。 誰に聞いたって「知らない」「わからない」の一点張り。 残されたのは己の記憶のみ。 俺は目を閉じてあいつの顔を思い浮かべる。 そういえば 傍に居ると安心した。 病室のドアから顔が見えると嬉しかった。 薬を嫌がると怒ったり、傷が痛むと伝えれば俺の変わりに泣いてしまいそうで、逆に心配した。 知らずのうちに眠ってしまった俺が起きると手に温かい感触があって、それがあいつが握ってくれていた手だとわかった時ドキっとした。 「別に意味なんてありません」頬を赤くして言ったその時の顔がとても可愛かった。 ただあいつとのひと時を思いだしただけ。 それだけなのに、この沸々と湧き上がる想い。 早く鳴る鼓動。 もう、それが答えだった。 君へと続く (ごめんね、それと、逢いたい) |