「さっき居た茶色い髪の男性はどなたですか?」 意地の悪い冗談だと思った。 あれから二日。 わかったことは、俺、つまり "小野寺律"に関しての記憶だけがどこかへいってしまったとゆうこと。 「ここはもう少し台詞を足した方がいいと思う」 「木佐の担当の方は、まあ問題ねーだろう」 「それから…」 高野さんが入院していても雑誌は関係なく発行される。 完全なる記憶喪失ではないから、仕事に関してはこうやって俺が書類を持ってきては高野さんに渡して進行だったり訂正箇所を見てもらえば何の問題もなかった。 最初こそは自分が俺に関しての記憶を失ってしまったことに申し訳なさがあったようだが 「ただの部下ですし、そのうち思いだしますよ」 平気な顔で何度も言ったおかげか、出来た溝は浅くなった気がする。 (そうだ、高野さんにとって俺はただの部下だ) 本当は 俺の初恋の人なんです。 少し前に再会をし、「また俺を好きって言わせてやる」そんな風に貴方から宣言され、意地でも言うもんかと思っていたのに結局は「好き」と言ってしまった。また惹かれてしまった。 けれど"俺"を知らない貴方は、きっと普通に異性の人と結婚して子供を授かって、四苦八苦しながら子育てをして、笑い皺のたくさんあるおじいちゃんになって…。 この関係を思い出さなければ世間で言われている"幸せ"を簡単に手に入れることが出来る。 だから、黙っていたほうが高野さんの為。 「おい、小野寺」 嫌とゆう程自分に言い聞かせたはずなのに。 声を聴くだけで 「大丈夫か?」 そっと触れられるだけで こんなにも、こんなにも。 消えてしまったとしても (苦しいくらい「好き」なんです) |