「お兄ちゃん髪の毛やって」 「今日はどうする?」 「うーん。おだんごがいい!」 「昨日と一緒じゃないか。編み込みして片方で結んでやる」 「すごい!そんなことも出来るの?楽しみ!!」 コーヒーを飲みながら今ではすっかり当たり前になった光景を目にとめる。 くしを器用に動かして、男の手首には似合わないレースをあしらったシュシュで綺麗にまとめ、どんどん嬉しそうな顔をしていく娘を見る限り今日も上手くいっているようだった。 「よし出来た」 「可愛い!ありがとう!!それじゃあ行ってくるね」 「あ、待て。今日はお弁当の日だろ。忘れてる」 「いけない!ありがとうお兄ちゃん。それじゃあ行ってきます」 「急いで転ぶなよ。いってらっしゃい」 パタパタと足を走らせ元気よく登校する娘に「いってらっしゃい」と自分も去り際に声をかけて、変わらず忙しなく動く横澤を見つめた。 「ぼーっとしないでさっさと喰ってくれ。片付かない」 そんな俺に気づいたのか、溜息混じりに毒を吐く姿がやっぱり今は居ない嫁と似ていて笑いがこみ上げる。 「悪い悪い。でも休みの日くらいゆっくり朝食喰わせてくれよ」 「さっきから一向に進んでねーだろ。掃除機もかけたいし、洗濯もある」 本当に嫁の小言じゃないか。 そう思ったら昔の記憶と重なって。 「だから早く喰え」 「だから早く食べて」 「ひよの方がよっぽど物わかりがいいぞ」 「ひよはちゃんとわかってくれるのに」 「ほら、笑ってないで口動かせよ」 「ほら、笑うのは後にして口動かして」 ちょっと前から始めた生活なのに、横澤とはずっと一緒に居る感じがする。 「人の話聞いてるのか!…っておい、なんだ」 手を伸ばして頬に触れ、額を一方的に押し付けた。 亡き嫁はこうして「ごめん」と素直に謝ると「しょうがないな」と少し照れた様子で困ったように笑っていた。 もしかしたら、そんな自己満足の期待を押しつけると 「しょうがねーな」 笑いはしなかったものの似た反応を示す横澤に "間違いじゃなかった"と、そう思えた。 僕だけが知ってる (きっとこれは運命) |