「トリ、これやるよ」 「…なんだこれ?」 「キーチェーン。この間買い物してた時に目についたから買ってきた」 「俺が貰っていいのか?」 「うん。トリにって思って買ったから」 帰宅後、まさか吉野から貰いものをするなんて夢にも思わなかった俺は込み上げるもの抑えて「ありがとう」と一言、大事にそれを握った。 それからとゆうもの 家に帰っても、吉野の家に行っても鍵を手にする度に軽い音を立てて目につくキーチェーン。自分を想って選んでくれたのだろうか。 吉野のことだから本当にたまたま目についただけで そこまで深い意味はないと思う。 だけど「こんなのは付けないだろう」とか「こっちの方が好きそう」だとか、俺が居ない時でもそうやって考えてくれた事が何より嬉しい。 ―数日後。 我が物顔で俺のベッドを占領する吉野の寝顔に若干の苛立ちを覚えながら夕飯の準備をしようとキッチンへ向かうと、テーブルに見慣れたものを見つけた。 (これ…) それは俺が吉野から貰ったキーチェーンとまったく一緒で、付いている鍵もほぼ同じだったから、自分が帰って来てからしまわなかったせいかと鞄を確認するとそこにはちゃんとしまわれていた。 もしかして。 都合のいい解釈が頭を駆け巡る。 「あれ?トリ帰ってきたの?」 突然声をかけられて驚くと「何驚いてんだよ」と言いながら寄ってくる吉野が居て。 どうしようか、と自分には珍しく悩んでいると、どうやら先に気づいたらしい。 ぶわっと効果音が付きそうなぐらい一気に顔を赤くすると 「違う、これは、あれだ!その、俺が買おうとしてて、で、羨ましがられても困るから、トリの分も買っただけだ!べ、別にお揃いが欲しくてとか、そんなんじゃないからな!」 捲し立てるように叫んでまたベッドへと逆戻り。 こんなの誰が聞いたって 「お揃いが欲しかった」 としか聞こえないのに。 バカだけど、一連の行動を思い返すと ほんと、可愛くてしょうがない。 「千秋」 ベッドに腰掛けて どうやってこの気持ちを伝えようか、そう考えながら覗く赤い耳に数日前よりも愛しさを込めて「ありがとう」と囁いた。 小さな幸せ (積み重なれば大きな幸せ) |