「た、高野さん!そこは触らないでください!」 「いいからお前はそっちやれよ。片付かねーだろ」 「だから自分で出来ますから、ほっといてください!」 いきなり人の家に来ては「汚すぎるから俺が掃除してやる」と言い始めて早三十分。この人にはデリカシーと言うものが存在しないのだろうか。ベッドの上を占領するつい先日洗ったばかりの洗濯物を勝手にたたみ始め、普通だったら「これは自分でやれよ」ぐらい言ったっていいのに人の下着までも綺麗に折って重ねてゆく。 「そんなに恥ずかしがってどうすんだよ。大体お前の下着姿だって見てんのに何が恥ずかしいんだ」 「そうゆう問題じゃないです。高野さんだって俺が、その、高野さんの下着たたんでたらちょっとは恥ずかしくなるでしょう!」 「ならねーよ。むしろ嬉しい」 「は!?」 なんとなく返す言葉が見つからないでいると 「だって世話焼いてくれてるみたいで嬉しいだろ」 さっきまで釣りあげていた目はどこにもなく、代わりに優しい眼差しが俺を捕えていた。 「そこまでの関係っていいもんだと思う。他人や友達とはまた違うだろ」 「時間が経っていけば家族になっていくんだろうし」 "家族"その響きが胸を突く。 不安の色を見せていたのだろうか。 高野さんは俺を手招きすると横に座らせて 「確かに男女の仲は明確に家族と言う形を表すことが出来るけど、書類なんか出さなくたって家族は出来るもんだ。一緒に飯喰ったり、気を使わずくつろいだり。俺は律とそんな関係になりたいよ」 まるでプロポーズみたいな台詞を言うもんだから、つい泣きそうになってしまった。 「俺、家事とか苦手で」 「うん。知ってる」 「けど努力はしてみます」 こんな散らかった部屋にしといて説得力に欠けるけれど、そう思ったのは本心。 「まあでも人には得意不得意があるからな。それを補うために人と関わるんだし」 普段なら甘やかすことはあまりしないはずなのに 「俺から離れないで隣に居てくれればいいよ」 頭を撫でる手つき その体温、声の音 どれもが甘い気がして家の中なのに日黙りの中に居るようだった。 未来を映して (どうか叶いますように) |