ただなんとなく来てしまった。 あいつとの思い出があるこの場所に。 古くも新しくもない校舎は休日のせいもあって部活動に励む生徒の声以外は何もなく随分と静かで、そういえば学生の頃二人で図書室に入り浸っていた時もこんな雰囲気だったなと月日は流れても変わらないものに少しほっとした。 月日は流れても変わらないもの。 …この気持ちも変わらなかった。 数年経ったのに 優しい茶色をした髪の毛も 緑に染まる大きな瞳も 恥ずかしそうに絡めてきた手の温度も なにひとつ忘れられなかった。 "逢いたい" たった四文字で表すことが出来るのに、こんなにも難しい。 色々な「あの時」を思い出すと、あいつはいつも顔を真っ赤にして会話すらまともに出来なくて。それでも自分を想って…そこまで好きだと想っていてくれてたからだとわかっていたから、可愛くてしょうがなかった。 "先輩、嵯峨先輩" 照れながら呼びかけてくる姿を思い出したら、必死に止めていた感情が零れそうになって急いで空を仰ぐ。 どこまでも広い青。 見ていたら、なんとなく心も落ち着いた。 けれど何かをする気にはなれず、適当に腰を下ろす。 しばらくして生徒の声も聞こえなくなり、いい加減帰ろうかと立ち上がったその時。 「変わっていないな」 どこからか懐かしむ声が耳を通る。 あたりを見回すと少し離れたところに人影があった。 彼はここへ来たばかりだった時の自分と同じように校舎を見つめ、寂しそうな、切なそうな、よくわからない瞳をしていた。 けれどその瞳には確かに見覚えがある。 長さは違えど髪の色も、よく見ると顔立ちも。 心臓が跳ねあがり、手が震える。 意を決してあいつの名を呼んだ。 手と同じで声が震える。 彼は驚いたように自分を見つめ、また驚いたように俺の名を紡いだ。 「嵯峨先輩?」 熱くなる目頭、息をするのも忘れた。 学生時代初めて本気で好きになった奴が突如姿を消して ずっとずっと追いかけて やっと、見つけた。 探してたんだ (どうしよう、嬉しくて泣きそうだ) |