「名前呼び禁止」 「は?」 「今お前は俺のメイドだから」 嫌な予感がした。それは今日この服を押し付けられた時に感じた悪寒と似ている。 「ご主人様、な」 ×げーむ メイド編 「高野さん、太もも痛いんで頭どけてください」 高野さんに膝枕をして数十分。 慣れないことに悲鳴をあげる足に耐え切れず俺は弱音を吐いたのだが、当の本人は何もなかったように居座り続け二度目、三度目の言葉も聞こえないふりをしていた。 なんでどかないのか。…は大体、いや原因はわかっている。 わかってはいるんだけど。 (言いたくない) こんなひらひらのメイド服を着せられて、少々ねじ曲がって出来ている俺のプライドは既にボロボロ。自業自得なのはわかっているが「罰ゲームでもなんでも受けてやる」と啖呵きってしまったために拒否もせず大人しく言うことを聞いてやっているのだ。なのにこの人はまだ足りないらしい。一体どれだけ俺を惨めにさせれば気が済むのだろう。 ただ残念なことにこの状況を打破する選択肢は二つしかない。 一、素直に従う。二、無理やり頭をどける。普段なら迷わず後者なのだが行動に出た後が恐ろしい。この格好のせいで下手に動けない。そう、何をやらされるかわかったもんじゃないからだ。 つまりじわじわと広がる足の痛みを我慢してこんな考えを巡らせなくても既に答えなんか決まっている。 未だに太ももの上を占領する黒髪の頭を見下ろしながら不快感を与えない程度に溜息をついて俺は覚悟をきめ口を開く。 「申し訳ありませんが頭をどけてくださいませんか」 "ご主人様" 棒読みすぎたか、と一瞬脳に影を落としたがゆっくりとその重みは消えていく。あれだけ無視されたのにたった一言でこうも簡単に問題が解決してしまうとは。 「いい気分だな、そう呼ばれるの」 背を向けられていたために見えていなかった顔は馬鹿にしたような笑みが張り付いていて不快でしょうがない。ぎゅっと握りしめた手のひらは汗ばんでいて、もういっそなんでもいいから謝ってこの低能な遊びを終わりにしてもらおうかとも思ったが、なんだか負けを認めるような気がして唇を噛みしめるだけで終わった。この時ばかりは自分の頑固な性格が厄介だと嫌気がさす。 「ご主人様を睨んだらだめだろ」 「元々こうゆう目つきなので」 「嘘つけ、キスしてる時はとろんと溶けそうな目してるじゃないか」 「な!」 一気に熱くなる顔を両手で引き寄せられて「冗談じゃない!」と言おうと思っていた言葉ごと塞がれる。力の抜けた手で高野さんの両肩を押しても全然全く効果がなくて、結局口からは耳を塞ぎたくなるような甘い吐息と声しか出なかった。 「ほらな」 「は、はぁ、はぁ…。最悪」 「減らず口だけは一人前だな、お前」 "まあそこも好きだけど" 思わず最後の言葉にドキっとしてしまった自分を隠すように睨んでやると 「ほんと手のかかるメイドだこと」 くすくす笑いながら高野さんは俺の瞼にひとつキスを落とした。 happy Halloween!2011.10.31 |