※宮城→高校教師、忍→生徒 昨夜姉貴の旦那になる、と言われて紹介された男はいつも本を楽しそうに読んでいた学校の教師だった。そして、密かに俺が想う人でもある。絶望と同時に沸き上がるのは、今まで遠くで見ていただけの俺が少し近づけたとゆう興奮。 何がきっかけだったかなんて覚えていない。たぶん一目惚れで、それから寝ても覚めても気になって、夢の中で俺に笑顔を向けるその人にどんどんはまってしまって。そう、 「宮城…」 名前を呟くだけでもこんなに嬉しいと思ってしまう程に重症だ。 「にっ」 最近習慣になった鏡を見て笑う練習。馬鹿馬鹿しい事だけどついやってしまうのは、前に廊下で宮城が「笑顔の可愛い子が好き」と言っていたのを聞いたからだ。まあ女子生徒にしつこく聞かれてした適当な返事だったんだろう。そもそも男の俺が練習したって何も得るものはないかもしれない。けど、ほんの少しだけでも好感が上がればいいと思いながら今日も鏡に笑ってみせた。 学校に着く。姉貴の弟として宮城に会うのは初めてだからそわそわして落ち着いていられない。担任でも、教科担当でもないから会えるのは廊下でだけ。まだか、まだか、と端から端まで行ったり来たり。すれ違う他の教師に早く教室へ入れ、と言われながらも待つ事はやめられなかった。 (馬鹿宮城、早く来い) 心の中で悪態を付いているとようやく姿を捕える事が出来る。嬉しさで駆け寄りそうになる足を抑え、ゆっくりと近づく。 どきどき、どきどき、 胸が裂けそうになる。顔が、体が、頭が、溶ける様に熱い。もうすぐ、もうすぐだ。 じっと見ていたからか、宮城も俺に気づいたみたいでなんだか微妙な顔をしながら軽く会釈をして通り過ぎる。 ほんの数秒。振り返ると頭をかきながら遠退く広い背中。朝の挨拶でもなんでもいいのに声をかけられなかった。けれど、まだ微かに残る煙草の香に気持ちは浮いたままで、授業が始まってもそれは変わらなかった。 |