純テロ・初恋 | ナノ


ふんわり、と言う表現が正しいと思う。鼻を掠めたその香を目で追った。

最近テレビで引っ切りなしに宣伝していたため昨日つい購入してしまった新商品の柔軟剤。何種類か香がある中から甘すぎず、あいつが好みそうな香を選んでみた。

俺は花の蜜に誘われた蝶の様に近づいて腕を伸ばす。もっと、と顔を寄せて鼻で息をすれば思った以上に心地好くてしばらくそれを繰り返した。

「忍」

それは夢から覚めた感覚と似ていて、揺れていた思考が一気にクリアになる。声の主はなぜだか顔が赤くそういえば距離が近すぎないか、と思ったとこで今自分が何をしていたのか初めて理解した。

どうやら俺は無意識にあいつの背中に身を寄せて犬みたいな行動をしてたらしい。

「忍、お前」
「うわっ、ごめ!いや、違う!違うんだ」

慌てて体を離そうとしたら逆に抱きしめられてしまって、身動きが取れない。

「バカ」

ふと頭上から落ちた音も香も柔らかく甘く、もう少しこのままで居たい気がしたから抵抗を止めて温い体温に身を委ねることにした。





fascinate
(誘われたのは貴方か、僕か)