「帝人、海行こうぜ!」 海開きにはまだまだ遠いっていうのに僕は正臣にほぼ誘拐された形で砂浜を踏み締めた。 天気も快晴で風もないけど、やっぱり少し肌寒い。久々に感じる塩の臭いとさざ波の音。寄せては返すその光景を何も考えずにただ見ていた。 「帝人ー!」 後ろから正臣の声がする。そういえば何をしに行ったんだろうと考えながら振り向くと、用意していないはずの自転車を片手で押さえ大きく手を振る彼がいた。 「どうしたの、それ」 「ん、貸してくれた」 「え、誰が?」 「知らない人が俺と帝人のデートに役立ててほしいってそこに置いといてくれたんだよ」 「……正臣、窃盗だよ。それ」 返せば大丈夫。と普段と変わらない笑みで言われてしまえばそれまで。僕はなんだかんだこの正臣の笑顔に弱いんだ。 「よし、行くぞ。帝人、ちゃんと捕まってろよ」 運転は正臣で、僕は荷台に跨がる。所謂ニケツってやつだ。 ゆるゆると走りはじめた自転車は次第にスピードに乗り、さっき居た場所が豆粒ぐらいの大きさで見える。 海を横目に風を感じながらこうやって走るのも悪くないと流れる景色の中で思っていると 「楽しいな!」 ペダルを休まず漕ぎ続ける正臣が若干息をあげながら口にする。 「うん。なんだか青春って言葉が似合う」 たぶん僕らの年代はみんな世間で言う青春時代に当たるんだろうけど別に実感することもないし、むしろ今みたいな現状をそう呼ぶのが正しい気がする。 それを聞いた正臣は何を思ったのか僕が背中にしがみつかなければ振り落とされそうなぐらい自転車を速く走らせて 「好きだー!帝人が好きだー!」 と大声で叫ぶ。 何してんの、とか馬鹿じゃないのとか、言いたい事はたくさんあるのに目の前にある背中に捕まって 「もっと青春っぽくね?」 楽しそうに笑う彼の言葉にただ頷くことしか出来なかった。 海風ラプソディ (ありったけの想い。風に乗せて君へ送る) |