drrr!! | ナノ


目を覚ますとそこには

「やあ」
「!?」

深紅の瞳をした彼が僕の顔を覗き込んでいた。

体を起して見回せば、どこかのお城のような暗く広い部屋。
ろうそくの火が妖しげにゆらゆらと揺れていて、気味の悪さをより一層引き立てている。

「僕は、貴方に捕まったのでしょうか」

やっと絞り出した声は少し震えていて、ゆっくりと瞬きをする瞼は泣いたせいかとても重かった。

僕が話しかけたのが以外だったのだろうか、彼は楽しそうに笑っていた。

「君、俺が怖くないの?」
「怖いですよ」
「全然平気そうじゃない」
「まさか」

"血を吸われて死ぬなんて怖いにきまってます"

そう僕が零れそうな涙を堪えながら口にすると

「君は面白いね」

と意味不明な解釈をして見つめてくる。

「此処は俺の住処なんだよ。俺以外誰も住んでいないし、誰も足を踏み込んだこともない。けれど俺は君を連れてきた。なんでだと思う?」

まったくもって脈略のない話に黙っていると彼はそんな僕に満足したのか更に続ける。

「実はね、俺にもよくわからないんだ。ただの獲物は連れてこない。なら君はただの獲物じゃないんだよ。きっと俺に必要だから連れてきたんだ」

元々近いお互いの距離をさらに彼は縮め始める。

「だからね、これからの君の人生を俺が貰ってその必要性を確かめようと思う。君の一生で俺に証明してみせてよ」

殺されるかもしれない、でも

「理不尽すぎます。僕をそんなあなたの欲求のために使わないでください。一生をあなたに捧げるくらいなら今すぐ死んだほうがましです」

彼の話を聞いたらその方が楽な気がして自ら死を選んだ。一生を捧げる?冗談じゃない。僕は人間で、彼は人外な生物だ。

けれど益々僕への興味が沸いたのか喉を震わせて笑う彼。

「君は面白い、実に面白いよ!」

人が無抵抗なのを良いことにシャツをはだけさせて首筋にキスをする。

「殺さないって言ったじゃないですか」
「うん、言ったよ。でも血を吸わないとは言ってない。こんなに美味しそうな匂いをさせてる君が目の前に居るんだ、いくら俺でも我慢ならないよ。大丈夫、死なない程度にいただくさ」

そう言って僕の体を赤いシーツの上に再び沈ませて首筋に優しく歯を立てる彼に気づかれないよう、堪えていた涙を静かに零した。




A fascinating vampire