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"またもや吸血鬼の仕業か"

「吸血鬼ね…」

僕は手に取った新聞を一通り眺めてから丸めて鞄へと押し込んだ。

「おじさん、新聞代」
「おぅ。まいどあり。帝人、探究心も大事だが…」
「「吸血鬼には気をつけろよ」」

見事に一致した声に顔を見合わせて噴き出した。

「それじゃあ」

そう言ってお店を後にした僕はレンガ造りの道を勢いよくかけていく。

街にはパンのこんがりとした匂いに、近くの海岸からする潮風と花売りの娘が漂わせる可憐な香りで溢れている。天気も良いせいか、僕の足は快調だった。

中心街にある噴水に腰掛けてさっき買った新聞を取り出し、文字を目で追い始める。

つい一週間前から起きている不可思議な事件。

若い独身女性ばかりが狙われていて、被害者に共通するのは首元に二つの穴があること。いずれも血液が搾り取られており、他特に外傷がないことから吸血鬼ではないか、と言われている。

吸血鬼と言えば遥か昔の言い伝えの中に存在するもののことだ。

いまいち信憑性がないような気もするが、以上の事と犯行時刻が深夜から明け方にかけてとなっていると、吸血鬼だと噂がたつのも仕方のない事かもしれない。

昼間は住人や商人などで溢れているこの街も夜になれば事件のせいもあってか静寂に包まれた、ただの闇へと変化する。

僕は適当に街をぶらつきながら

いつもの様に焼き立てのパンを頬張って
いつもの様に船乗りの友達と海へ出て
いつもの様に夕方頃温かい夕飯が待つ家へ帰る

…はずだった。

日常が壊れ始めたのは、夕方。

突然の雨に僕は朝来た道を急いで戻っていた。
なにもかもずぶ濡れで、激しい雨に引いたのか街には人っこひとり居なかった。

雨が弱まるまで少し待っていよう。

そう考えてとある店の屋根で雨宿り。
中からは陽気な歌と声がしてどうやら宴会をしているようだった。

僕も早く家に帰りたいな。

と家族の顔を思い浮かべていると、頭上でバサバサっと鳥が羽ばたくような音がした。

見上げてもその正体はわからなかったが、雨と一緒にはらはらと漆黒の羽が舞い落ちる。

なんだろう。

妙な胸騒ぎがした後、どこからともなく聞こえてくる不思議な声。

「・・・・・・」

何を言っているかは聞き取れなかった。
けれども確かに聞こえてくる声。

「・・・・・・」

僕は体が一回大きく震えた後、何故だか呼ばれているような気がして

もうすぐ夜を迎えるこの街を

「・・・・・・」

その声の通りに歩き始めた。