「こうか?」 「そうそう、この公式を使って…」 「答えは…3?」 「正解。静雄くん、やれば出来」 「帝人せーんぱい。シズちゃんばっかりずるい、俺にも教えてよ」 外の暑さとは無縁の冷風に包まれたこの一室。 扉の外には図書室の三文字が並んだプレートが掲げてあり、僕たちの他にも人がぽつりぽつりと各々の時間を過ごしている。 この学校に通い始めて早二年が過ぎ、今年で三度目の夏休みを迎えている僕に非日常を固めて人の形をさせたような、とにかく普通じゃない一年生の後輩が二人も出来てしまったのだ。 一人は僕の隣に座っている綺麗な金髪をした平和島静雄くん。 彼の血管が今にも切れてしまいそうな理由は後ろから僕に抱きついて嫌な笑みを浮かべている折原臨也くんにあるらしい。彼もその後輩のひとりだ。 どうしてか二人は僕に懐いてしまい、何かしら理由をつけて会いにやってくる。こうしている今も例外ではなく、自分の家は暑くて仕方ないからと此処へ逃げ込んだ僕の後を追うように彼らもわざわざきたらしい。 「ところで、臨也くん。いい加減離れてくれないかな?」 「だーめ。俺は帝人先輩とこうして居たいもの」 「臨也、テメェ」 最初こそ犬猿の仲らしい二人が揃うと気づいたら周りにあった物が瓦礫と化していた、なんてことはごくごく当たり前だった。でも最近は僕が嫌がるからなのか、静雄くんもこうやって必死に殴りかかりそうになる自分を抑えつけたり、臨也くんは…あまり変わらないけど、むやみに刃物を投げなくなった気がする。 「なんだい、シズちゃん。悔しかったらシズちゃんもやってみればいいじゃないか」 臨也くんがそう言うと静雄くんは顔を真っ赤にして僕を見つめる。 「ん?静雄くん?」 「ほらやってごらんよ。どうせシズちゃんには出来ないだろうけど」 後ろから僕を捕まえていた腕の力が強くなって更に臨也くんとの距離が近づいた。ちくちくと彼の髪の毛が耳にあたりくすぐったい。どうにかしようと頭を動かしていたら 「帝人先輩、愛してる」 吐息混じりの声で囁かれた後 「っ!?」 甘噛みというのだろうか、僕の耳に違和感が走った。 けれどその違和感はすぐに消え、ついでに拘束していた腕も温もりも同様になくなった。代わりに静雄くんの拳がすぐ顔の横にあったから、まさかと思って振り返れば臨也くんが作った笑顔をこちらに向けている。 「臨也、俺に喧嘩売ってんだろ、そうだろう。あーわかった。そんなに殺されてぇなら殺してやる。今すぐ殺す。殺す。ぶっ殺す!!!」 「どこをどう見たら喧嘩売ってるように見えるのさ。ほんと馬鹿の考えはわからないなぁ」 正に一発触発。 いつの間にかまばらに居た人も居なくなっていて、シーンと静まり返っていた。何度もこの緊張感が張り詰める空間に取り残されたことのある僕は案外冷静で、巻き添えになる人が居なくてよかった、とすら思っている。でも、既に戦闘態勢となった二人の好き勝手にさせて図書室全壊、なんて事態は避けたい。 「え」 「な、帝人さん!?」 僕は深呼吸をひとつして立ち上がり数歩前にある静雄くんの体をぎゅっと抱きしめた。上にある顔を見ればさっきまでギラギラと獲物を狩るような鋭い目つきが、ゆらゆらと左右に揺れていて、あ、とか、う、とか一文字が口から洩れる。 「静雄くんもどうぞ」 「へっ!?」 「腕。まわしていいよ」 周りが見ても、自分だってわかる。こんなのおかしいって。けどどうゆう訳か、話の流れからして二人はこんなことでもめているらしい。僕みたいなモヤシ体系の先輩をからかって楽しいのだろうか。まあこれで学校の平和が守れるならお安い御用。 「帝人先輩、俺にも抱きしめさせて」 「臨也くんはさっきしたからだめです。イーブンにしないとね」 後方から聞こえる声に声だけ返す。 向け続けている目で静雄くんに訴えると、恥ずかしそうに、そして躊躇いながらも腕を回してきた。段々と力が加わってきて、しっかりと抱きしめられる。単なるハグだと思えば別に僕だって苦ではない。 なんとなく触ってみたくて金髪の頭を撫でると、やっぱり想像通り柔らかい髪だった。 「あー!シズちゃんずるい!帝人先輩、俺にもそれやってよ」 「はいはい」 頭から手を、静雄くんから体を、ワンテンポずらして離す。 振り返れば腕を広げている臨也くんが居て僕は苦笑した。 「飛び込んできてよ、しっかり受け止めるから」 「遠慮しとく」 言いながら数歩前に進む。が、突然後ろへと引き寄せられ、また僕は静雄くんの腕の中へと戻ってしまった。 「ちょっとシズちゃんどうゆうつもり?」 「帝人さん、俺…帝人さんのこと好きです」 「え、ちょっと静雄くん!?」 「帝人さんだけはあいつに渡せねぇ」 まさかこんな歳になって、しかも男の僕が、後輩に誘拐されるとは考えもしなかった。 物凄いスピードで学校を駆け抜けていく静雄くんに抱えられ、そんな彼の背中越しから見えるのは狂ったように笑い、殺気を飛ばしながら追いかけてくる臨也くん。 「あーあやっぱり俺はシズちゃんが心底嫌いだよ」 「奇遇だな、俺もテメェだけは天と地が逆さになったって好きになれねぇ」 ほんと手のかかるどうしようもない二人だけど 「でも帝人先輩は大好きですよ」 「俺も…帝人さんは、す、好きだ」 僕には可愛い後輩、だと思います。 War that plunders senior (独り占めしたいならもっと僕をその気にさせて) DEAR 悠果様!(戦争サンド。後輩×先輩) ▽どこが夏っぽいのか聞きたい(←)冒頭では帝人先輩がシズちゃんの夏休みの宿題を手伝っています。わかんねーYO!ってツっこんであげてください、すいません。とりあえず先輩な受けキャラを目指してみました。先輩らしさを残しつつ受けきれてますかね、うちの帝人くん。 悠果様、夏企画なのにこんな話で申し訳ありません!ご要望があれば書きなおしも致しますので。リクエストありがとうございました。 |