drrr!! | ナノ


雨が降った。

僕はどんよりした雲の下に買ったばかりの傘を開く。せめて気分だけでも、と思って選んだのは明るい青。

色鮮やかなそれが無数にある景色を見回しながら、自己満足だけど僕の傘が一番綺麗だと思った。

「帝人」

いざ歩きだそうとした足が踏み止まる。聞き慣れた声に後ろを振り返れば「一緒に帰ろうぜ」と笑う正臣が居た。良く見れば手には鞄しかない。

「忘れたの?」
「いや、忘れてない」

ほら、と見せ付けるのはオレンジの折り畳み傘。けれど開くそぶりもしないで正臣は鞄へと押し込む。

わけがわからずその様子をただ眺めていると僕が持つ傘を取り上げ、空いた手を引っ張り歩き始めた。

「ちょっと正臣!」

予想だにしない出来事に頭が追いつかない。男二人が手を繋いで相合い傘だなんて恥ずかしすぎる!なんとか手だけでも、と振りほどこうとしたのに強く握られてしまったためそれさえも敵わず、どんどん先を行く背中に着いていくので精一杯だった。

歩道の信号が赤へと変わりやっと足が止まる。言いたい事がたくさんありすぎて何から言ってやろうか考えていると急に視界が肌色一色に変化する。

たぶんほんの数秒。唇に熱が伝わり、それが正臣の唇だと気づいたのは冷えた空気に晒されてから。

「俺さ、雨嫌いなんだ」

耳に届く声よりも自分の心臓の音が煩くてしょうがない。少し寒かった温度もちょうど良いと感じるぐらいに体が火照る。何でもなさそうに車が通る道路の向こうへ目をやっていた正臣が僕へと視線を移し普段とは違う妖艶という言葉が似合うだろう笑みを浮かべて

「でもさ、帝人となら雨も好きになれそう」

なんて意味深な台詞を滑らせた。

そんなこんなでちっとも余裕のない僕は

「この信号長いよな」

と、また近づく熱を受け入れる以外の選択肢が浮かばず大変不本意ながらも目を瞑り明日も雨だといい、なんてどうでもいいことに思考回路を巡らせた。





雨、時々、、、
(この空間が世界に二人だけだと錯覚させる)