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空を流れる白い雲と吐き出した煙草の煙が重なって見える。遠くで授業の予鈴が鳴るのを俺は他人事のように屋上にあぐらをかいたまま聞いていた。

「綱…。綱吉………。綱吉さん………」

馬鹿みたいに口にするのはついこの間恋人と言う関係になったあの方の名前。

変わらず十代目と呼んでいたら

「名前でいいのに」

と、一言こぼされたのだ。

ただ名前で呼ぶのには抵抗があり、どうもしっくりこない。思い出せばあの日からまともに呼べていない気がする。

「あー。十代目ー」
「何?」
「って、うわ!じゅ、じゃなくて。あ、えと、すいません」

今では懐かしい呼びかけにまさか本人が応えてくれるとは思わなかったから驚いた。

「獄寺くん授業さぼった」
「す、すいません。あれ?まだ終わってないっすよね」
「何してたの?さっきから俺の名前呼んで」
「え、聞いていたんすか!」
「うん。で、理由は?」
「その…実は………」




事の経緯を話すと、はぁ、と溜息が聞こえる。飽きられたかもしれないなんて考え出すと言葉が詰まり、ただ黙っていることしか出来ずにいた。


「だから最近おかしかったんだ」
「すいません」
「いや、俺が余計な事言ったからだね。ごめん」
「そんな!」
「まさかそこまで気にするとは思わなかった。ただ付き合ってるんだから、って思ってたんだけど…。今まで通り十代目って呼んでよ」
「へ?」

思ってもみなかった台詞に嫌な方向ばかりに巡らせていた思考回路が停止する。

「なんかさ、獄寺くんが十代目って俺を呼ぶのに馴れすぎたみたい。確かに名前で呼ばれるのは嬉しいけどこんなふうに悩まれて話す事も出来ないのは嫌だし、十代目って呼んでくれる時の獄寺くん、俺好きだよ」

柔らかく微笑むその表情と向けられた気持ちに体中が熱くなる。

「じゅ、十代目、今なんて…」

つい、と言う表現が正しいのか目の前に居る十代目も赤く色付いて

「その声で呼ばれると嬉しいってこと」

さっきから座っていた俺のすぐ横に腰を降ろした。

耳まで赤い隣の恋人が本当に可愛い。何も言わないし、恥ずかしいのかそっぽを向いて表情はわからないけど。でも風に揺れる蜂蜜色の髪の毛と小さな背中が誘うからたまらず体を抱き寄せた。

久々に感じる温もりと男にしては甘い甘い香り。いつか柔軟剤のせいだとか、シャンプーのせいだとか言っていたけどそれだけじゃないと思う。

「獄寺くん、ここ学校」
「はい」

嫌がらない事を良いことに頭を撫でたり、軽い口づけを落とす。

「十代目、こっち見てください」
「なんで?」
「キスしたいんです」
「してるじゃん」
「首とかじゃなくて、唇にさせてください」
「………」
「十代目、また俺悩んじゃいますよ。恋人がキスさせてくれないって」
「そ、それは嫌だ」

俺もキス出来なくなる、だなんて上目遣いで見上げてく可愛い恋人に何度も何度も口づけた。

「十代目」

合間に発したその音はひどく甘く鳴った気がする。




たかが名前、されど名前
(あなたに呼ばれればまた特別!)