キバナくんやネズくんの都合の良い時間をちょっとずつ割いてもらっては、バトルの練習に明け暮れる日々で。ダンデに気付かれないようにと、そこが一番大変だった。あんまり他者の事を気にしていない風で、ダンデは変化に鋭いから。
ちょっと残業で今日は遅くなるねとか嘘を吐くのも心苦しかったので、今までの人生で一等の頑張りをみせた私は、ある日とうとうキバナくんとネズくんから合格を貰えた。ネズくんは及第点ですけどねと言ってたけど聞かなかった事にした。
結局ダンデと幾度もバトルした事のある二人によって、レンタルポケモンの選出から何から何までお世話になってしまった。でも最終的にキバナくん曰く、とりあえずもうあとはある程度相性でゴリ押すしかねえな、という身も蓋もない感じだった。それでも、ダンデが出してくるであろうポケモンとその順番、ダンデはダイマックスは絶対リザードンに使ってくるからとその対策まで、しっかり叩き込まれて迎えた休日。
休日と言っても私のであって、今日も元気に稼働しているバトルタワーの勤務へと向かったダンデを朝に見送って。午前中を使い家の用事を済ませて、軽く昼食をとりいざ向かった恋人の職場。

背の高いその建造物は遠目からは毎日のように見ていても、ローズタワーの頃からも一度も行った事のないそこ。モノレールに乗って辿り着いて、初めて間近でみたそこは、酷く大きな存在感でもってよく晴れ渡った青天を背景に鎮座していた。つい見上げてしまって、これじゃまるで田舎から出てきたおのぼりさんみたいだと気付いて、気合をひとつ入れると自動ドアを潜る。
緊張しながらどうにか受付を済ませて、バトルをする場所へ行く途中でボールに、今日はお願いねとそっと声をかけた。レンタル用のポケモンはどんな人間であっても指示をスムーズに聞くよう訓練されているとの事なので、やっぱり問題は私なのだ。
キバナくんからは「まあ、折角だしよ。頑張ってダンデをボッコボコにしてこいよ?」という応援を、ネズくんからは「何があったか知らないですけど、骨くらいは拾ってやりますよ」というフォローを頂いたのを思い出してそっとどうにか気持ちを落ち着けようとする。いや、正直なところ昨日から胃が出そうなくらいドキドキしてて、夜も上手く眠れなかったりしたので既にしんどさが限界で辛かったりするんだけど、でもまだ、そもそもダンデとの昇格戦まで勝ち進めなければいけないから。まだ本番じゃない。トレーナーさんには悪いけど練習と思って気楽に頑張りたい。切実な想いのうちに、バトルをする場に着いてしまい、びっくりした。
ワンフロアをまるっと使われているそこは、確かにポケモンがダイマックスしても十分な程のスペースはおろか、高さまで兼ね備えた巨大な空間だった。室内で、と思ってたけどこれならバトルしても問題はなさそうで素直に凄いと思う。観に行った事のあるスタジアムとは全然違って、人目の一切ないこの空間は本当にバトルに特化した施設なのだと改めて思うと同時に、恋人は何時もここでチャレンジャーを迎えうっているのかとしみじみする心地だった。
あと、周囲が全面ガラス張りで今日の綺麗な天の碧さが広がっていて、ここどれだけ高いのとちょっとびびっていたら対戦相手のトレーナーさんがやってきて現実に引き戻される。
よろしくお願いしますと挨拶をして、結局全然おさまってくれない胸のドキドキのままボールを投げた。


なんとか、本当になんとか危なげなく勝ち進み、毎戦キバナくんとネズくんに心底感謝しながら。ポケモンは回復してもらえるけど、連戦に私の方が疲労が酷い気もしつつ、でもあとに引く訳にはいかないから勢いのまま、やっと昇格戦に辿り着いた。
トップジムリーダーさまと元ジムリーダーさまにご教示頂いたたまものだと、もう既になんだか泣きそうな心地で。だって、あれだけバトルが下手だ下手だと言われてきた私が、ビギナー級とはいえここまで来れたのだ。だって、そんな私が「まさか、キミと此処で会えるとは思ってもみなかったんだぜ」コツ、と上品な靴音をさせて、臙脂の長いスバメの尾のような裾を、流れる菫色の髪を靡かせながらこちらに歩んでくるその人と、ダンデとこうやって対峙する日が来れたのだ。
帽子を片手に、綺麗な立ち姿で私に笑いかけるダンデに、やっぱり何故だか泣きそうな気分だった。チャンピオンの時と全然違う、落ち着いた佇まい。観客を喜ばすパフォーマンスを求められていないその姿で、私にうつくしい笑顔を向けるダンデは嬉しそうだったけど、でも私には内面を知る事なんて出来ない。
撮影用のロトムはずっと飛んでいるから、きっとどこかでダンデは見ていたのではと思うも、そうだったらどういう気持ちでいたんだろう。バトルをしない筈の恋人が、突然バトルタワーにやってきて自分の元へ来ようとする姿をどう見ていたんだろう。分からないから、私も笑顔を浮かべる。

「驚いた?」
「ああ、驚いたぜ。最近何か様子が違うというか、こそこそしているなとは思っていたが、嬉しい驚きだ」
「よかった。レンタルだけど、一度ダンデとバトルしてみたくて。特訓してきたの」
「いや、レンタルはキミのようなポケモンバトルに馴染みのない人にも気軽に接して欲しくて設けているものだからな、上手く活かしてくれているのはオーナー冥利に尽きる」

穏やかに言いながらダンデは帽子で口元を隠し、ふっと再度あらわになった時にはその笑みは種類を変えていた。

「さあ、お喋りはここまでにしよう。ここからはバトルタワーのオーナーとして、キミの力を見定めさせてもらうぜ!」

静かでありながら、不適な強者の笑み。私を恋人ではなくただの一人のチャレンジャーとして見ている眼差しに、ぞわりと肌が粟立つ。怖いのか嬉しいのか、自分が分からなくて。でも緊張を上回る熱が、確かに身の内にある気がした。

チャンピオンの時は、ずっとテレビ画面越しや稀に運良くチケットが取れた際にはスタジアムの客席で観ていたバトルをするダンデを、今や真正面から受けて直ぐに煩い心臓を気にする暇なんてなくなった。さっきまでのトレーナーさん達とは全然違う圧や、指示の鋭さに対応するのに手一杯で、でもどうにかキバナくん達に教わった事を胸に一進一退。
ダンデのポケモンも、私のポケモンも残りは一匹ずつ。もしかしたら二番手くらいに出してくる可能性もあると注意されていたけど、結局今までに姿を現していなかった緋色の巨体に臆しそうになる気持ちを叱咤して、私もレンタルポケモンと一緒に借りたバンドに願いを込める。
バトル中のダンデは静かな闘争心を剥き出しに、口元を笑みが彩る事もなく、何をどう感じているのか私には窺う事なんて出来なくて。私も恐ろしいのか楽しいのか、ただただ必死過ぎて自分の心中に渦巻くものすら上手く理解出来ないまま巨大化したボールを投げて、もう後も先もないんだと思う。行き着く未来がどこか分かっていなくても、それでも進まなければいけないから私は声を張り上げて指示を飛ばした。
ダイマックスバトルは一撃一撃が重く激しく、熱風や床の揺れに耐えながら、衝撃に瞑ってしまいそうになる睛をしっかりと開いて、ただ眼前の獣と人を捉えて。たぶん、きっと、どう転んでも、もうこの光景を見る事はないんじゃないかなって、予感じみたそれはどうしてだか、あまりにもあっさり胸にストンと落ちて。そうして、それでもただひとつの事だけを思った。
ダンデ好きだよ、ってそれだけを思った。
勝ちたい訳でも負けたい訳でもなくて、ただ私はそう叫びたかっただけなのかもしれない。
刹那とも永遠ともつかなくても、ちっぽけな人間である私の時間が止まる事は決して有り得ないから、炎の飛竜を受けた私のポケモンは苦しげに鳴きながらその身は縮んでいって、煙の晴れた先ではぐったりと睛を回している姿が見て取れた。
その向こうでダンデのリザードンも、こちらはしかとその両足で地を踏み締めたまま縮み、やがて見慣れたサイズで翼を力強く羽ばたかせる。ロトムによるジャッジで、これで三匹全て戦闘不能となった私の敗北が決定した。上手く力の入らない足でどうにか近付いて、ごめんねとありがとうを告げボールに戻す。終わった。終わったのだ。ぼんやりと、現実味の薄い感覚で、でも悔しさだとかが去来していないのは私が結局トレーナーではないからなんだろうか。

「―――惜しかったな。だが、良いバトルだった」

穏やかな声に顔を上げれば、同様にボールに戻していたダンデがこちらを向いていて、その静かなおもてに、ああ、と思う。
分かってたけど、でも、やっぱり、私じゃ駄目だったんだと察してしまって、一瞬睛の奥が酷い熱を帯びたのを気のせいにして、にっこり、笑顔を浮かべる。

「うん。勝てるかなーって思ったけど、やっぱりダンデは強いね!」
「キミも、バトル初心者とは思えないくらいにしっかりと指示を出していて凄かったぜ。特訓したと言っていたが、誰かに教わったのか?」
「え、あ、うん。キバナくんとネズくんに無理言って…お願いしました」
「どうりで、オレの対策がよく練られているバトルだった訳だ」

楽しかったと和かに微笑むダンデも、私も何時もと同じ、何時もと変わらないやり取り。

「なあ、ナマエ―――…ん、ちょっと待ってくれ」

ダンデが言葉を重ねようとした時、耳に手を当て何か会話を交わし始める。どうやらイヤマイクに連絡が入ったみたいで「すまない、次の昇格戦の相手が来ているようだ」やがて私に向き直してそう告げる。

「じゃあ、急いで準備しないと!私はもう帰るから、お仕事頑張ってねオーナー!」

満面の笑顔で言って、私はエレベーターに向かったけど「ああ、ナマエも気を付けて帰ってくれ」と声をかけて来たダンデが、どこか名残惜しそうにしていたのを気のせいにしておいた。自分の内面がぐちゃぐちゃ過ぎて、人の事を慮る事なんて今だけは出来なかった。




頑張ってくれたポケモン達を受付で返却し、バトルタワーをあとにする頃にはもう日が暮れかかっている頃合いで。青天は瞬きの間にも薄い紅色へと綺麗なグラデーションを変化させていっているのをぼんやり眺めて、早く帰って夕食の準備しないとだとか、でもその前に足りない食材買っておかないとだとか、思うのに全然やる気が起きてくれないでいると、不意にスマホが揺れる。
液晶にはキバナくんの名前が表示されていて、考える前に通話ボタンを押してしまう。

「おっ、出たって事はバトルもう終わったのかよ」
「…………」
「ん?おい、もしもーし、聞こえてるか?」
「………っば、く…」
「ンン?悪い、上手く聞こえな、」
「キバナくんんんんんん…ッ」
「うわっ、うるせえ、ってかオマエ泣いて、」
「ダメだったよおおおお…っう、ふぐ…っ」

キバナくんの声を聞いた途端にずっと耐えていたものが決壊してしまった。駄目だった。えへへ負けちゃった!と明るく応えようと思っていたのに、抑えようと思ってももう無理だった。次から次へとぼろぼろ、こぼれて溢れて、化粧が、という切実な思考も無視して大粒のそれは止まってくれない。嗚咽ばかりが漏れて、苦しい。そうだよ苦しいんだよ。ずっとずっと苦しかった。突如泣き出した私にけれどキバナくんは唸ってから「あ―――…ちょ、どこだ今」そう問いかけてきたので、どうにか現在地を言えば近くに良い店あるから行くぞと告げられ、一方的に通話が切れたあとお店の詳細が送られてくる。晩ご飯、家に帰って作らないといけないのに、なのに足は地図を辿ってしまう。
裏道にある隠れ家風のひっそりとしたお店に到着した頃にはどうにか涙を引っ込めて、通されたのはちょっと奥まった席で。そんなに広くない店内なのに、品の良い調度品によって適度に視線が遮られている事に気付いてなるほど確かに有名人であるキバナくんにとって居心地が良さそうなお店だと思いながら、とりあえず喉渇いたしとあっさりめのジュースを頼んで潤していたらキバナくんがやってきた。緩いカジュアルな格好に、ヘアバンドもしていないから一瞬誰だろうみたいな感じだけどスタイル抜群な高身長で直ぐ分かる。何時もは結われた髪もサラリと輪郭を隠していて今日はオフの日だったのかと思う。

「おっ、なんだ泣きやんでんじゃねーか…それ酒か?」
「ジュースだよ」
「バーカ、オマエこんな時に飲まないでどうすんだよ」

言ってキバナくんは店員さんに自分のと私のぶんのアルコールと、軽めのおつまみを注文してしまう。
直ぐにそれらが運ばれてきて、一枚自撮りをキメたあとに操作し終えたスマホロトムは卓上で大人しくなり、ぐっとエールを呷り咽喉を鳴らしてからキバナくんが「で?」と口を開く。

「ポケモンバトルは負けました……ボッコボコに出来なかったよ…」

どんなバトルだったか、かいつまんで説明したらキバナくんは「まあ、そこはそれダンデだしな。でもオマエもバトル初心者の身でよくやったよ」と甘やかしてくれるので、キバナくんがモテるのはこういうとこなんだろうなと察する。

「つーかよ、そこじゃないんだろ?」

そうやって、察しの良いところもなんだろうなと思いながら、まだちょっと早い時分に飲むお酒は、なんだかいけない事をしている気分になるも、でも何時もより美味しい気がしてついごくごく飲んでしまう。

「…………もしダンデと別れても、キバナくんズッ友でいてくれる…?」
「不穏!」
「だってえええ」
「前に言ってた人生設計に関わってくるって、そっちかよおま!何だよそんなにダンデと上手くいってねーの?」
「ダンデとの関係は良好だよ……でもだから余計しんどいっていうか…ううう…」
「あーー…まだ言えないのかよ」
「言えない…ごめん……でも今日家に帰ったらダンデと話して…その結果次第ではほんとダンデと別れると思う…っ」

軽く揚がったポテトをもそもそ食べながら、また涙腺が緩んできている気がするけど、止めようという意思がもうあんまりない気がした。

「はああああ、ったく、オマエらは……分かったよ、キバナさまは何があってもオマエのズッ友だよ」
「ありがとうキバナさまああああ…ッ」
「ハイハイ、ちょーっと声落とそうなー」

めんどうくさい人間の扱いに手慣れてない?キバナくん。悲しみと喜びのままに私はキバナくんと一緒にオニオングラタンスープとか色んな部位のステーキ盛り合わせとかシーフードサラダとか、色々頼んで完全に食べて飲むのに集中し始めた。ダンデに連絡入れておかないとと思うのに、臆病者の私はついメール画面を開けないでいた。あとで怒られるかな、呆れられるかな、でもそうだったらその良くない雰囲気のまま勢いで話した方が喋りやすいかもしれないなんていう馬鹿みたいな打算もあった。

「にしても、オマエ、ダンデの事別に嫌いになったとかそういう訳じゃねえんだろ?」
「違うよー…嫌いになる訳…なれる訳ないじゃんー…大好きだよもー…っ」
「ノロケ乙。まあ、見る限りダンデもオマエの事大好きだしよ、もっとちゃんとダンデに色々思ってる事伝えた方がいいんじゃねーの?オマエは」
「ううう……溜め込み過ぎな自覚はあるんだけど、でもそれも仕方ないっていうか…私だって頑張ったんだよ色々さあああああ」
「うんうん、頑張った頑張った、えらいえらい」
「慰め方が雑ううううう…」

だいぶ酔いが回ってぐだぐだと、半分くらい机に突っ伏してくだを巻いている私とは正反対にキバナくんは若干赤みを増した肌なもののそのアイスブルーの瞳は未だ涼しげだ。完全にペース配分間違えた自覚はあったから、あとはもうお水にしておこうと店員さんに注文して、はあとひとつ息を吐く。

「でも……ほんと、今回が最後の手段だったっていうか…もうこれで私には打つ手なしっていうか……ううう、なんで好きなだけじゃ駄目なんだろ…」
「まあ、現実的には難しい時もあるよな」
「ダンデを……私の事、信用してくれてるダンデを裏切るのが一番つらい…やだ…なんで私駄目なんだろ…」
「自分の気持ち偽っても何時かどっかでガタがきて破綻しちまうもんだぜ?そうやって自分責めるのだけはやめとけ」
「うえええええ…キバナくんの優しさが身に染みる…」
「惚れてもいいんだぜ?」
「それはない」
「即答!」

けらけら笑うキバナくんに、私もつられてちょっと笑ってしまう。本当こうやって軽口叩ける友人がいて恵まれている。

「なら、ちゃんと二人で最善見つけろよ。オレさまハッピーエンド以外見たくねえんだからよ」
「ううう……分かってるけど、家に帰りたくないよおお…」
「それは困るな。オレはキミと一緒に帰りたいんだぜ」
「……………え、」

不意にさした影に、店員さんかなと思った私の思考は降ってきた聞き慣れすぎた声に、まるで冷や水をかけられたみたいに一瞬で冴える。
ギギギ……アル、と思わず寒いギャグを飛ばしたくなるくらいに軋んだ首の動きで見上げれば、そこには想像通りの人物、ダンデがスマホを片手に立っていた。

「……え?なんでダンデ…?」
「酔っ払いの、こんな状態の恋人を迎えに来るのは当然だろう」
「おれの案内がなけりゃ一人で来れねえくせに、格好付けてんじゃないですよ」
「え?あれ?ネズくんまでなんで?」

どこか安堵した風な笑みで言うダンデの背後から辛辣で切実な台詞と共に、特徴的な白黒の髪型と呆れ切った顔が覗く。

「おー、ネズ、方向音痴の案内ご苦労さん」
「本当ですよ。人を使いやがって」

そんなネズくんをキバナくんが労る。突然の登場に全然驚いていない様子のキバナくんに、え?キバナくん?と視線を投げかけたらキバナくんは私に向かってニパーッとヌメラスマイルを輝かせつつ、ずっと机に伏せてあったスマホロトムを持ち上げひらひらと振る。その液晶画面にあるのは、ダンデと通話中の文字。

「………えええ?待っ、いつ…いつから…?」
「んー?最初から」

語尾に星でも付きそうな感じでキバナくんが無情にも言い放った言葉に机へ突っ伏す。最初から。キバナくんとのこの飲み会の音声はつまり最初からダンデに筒抜けでダダ漏れだったと。

「なん……え?なんでえええ…?」
「言ったろオレさまダンデにボコられたくねえって」
「ん?ポケモンバトルなら何時でも受けるぜキバナ」
「いや、睛が笑ってないオマエとバトルしたくねえっつってんだよ」

頭上で繰り広げられる会話は何だか物騒だけど楽しげなので戯れているだけなのだと分かる。というか顔がいいね全員。なにここの顔面偏差値、レベル高過ぎない?あと何気に豪華。ファンがみたら卒倒しそうなぐらいの豪華メンツじゃないこれと、若干現実逃避をし始めた感のある頭で思っていたらふと睛が合ったネズくんが「ほら、さっさと帰ったらどうです酔っ払い」と嘆息しながら言う。

「ネズくん骨拾ってくれるんじゃなかったのおお…?」
「言いましたが、それ以上にバンバドロに蹴られたくないのですよ、こちとら」

ネズくんの優しさに縋ろうにもあえなく一蹴される。どういう意味だろうと訊く前に「そうだぜ」腕を掴まれ上体を起こされると、そのまま両手が脇の下に入りぐっと持ち上げられる。

「ダッ…うわあっ…!?」

一瞬の浮遊感のあとに、パンプスの踵が地面につくのが分かって安堵するも、急に立ち上がった酔っ払いの身体はぐらついて睛の前の藁を掴んでしまう。

「おっと……じゃあ、キバナ、お代はここに置いておく。すまなかったな」
「別にオマエに謝られる事じゃねえよ、なあ、ネズ?」
「おれはどうでもいいんでさっさと帰りたいのですが」

私が掴んだ藁、もといダンデは胸元に寄りかかるカタチの私を一切揺らぐ事なく支え、肩を抱くと何時の間に置いたのか、ちらっと見えただけでも明らかに多い紙幣を指先でトンと叩いてから歩き出す。

「え?わ…ちょ、」

ダンデに支えられたままの私も必然歩き出す事となり。辛うじて首だけで振り返ったら、キバナくんは「真っ直ぐ出た先にタクシー乗り場あるからよ」と笑顔で手を振っており、ネズくんには売られていくウール―を見る睛で見送られた。
お店を出て、明らかに左に行こうとしたダンデを「キバナくん真っ直ぐって言ってたよ?!」つい方向修正しながら、大通りに出たら確かに直ぐそこにアーマーガアタクシーが居たので、ダンデと共に乗り込む。運転手さんは私達を見て、一瞬おや?という表情はしたけどそこはプロ、普通にスルーして目的地を訊いたらそれ以上は何も言わずアーマーガアを飛ばしてくれた。並んで座席に腰掛けて、でも距離が酷く近いのは未だダンデが私の肩をがっちりと抱いている所為だった。そして、

「…………」
「…………」

沈黙が痛い。アルコールで熱っぽい脳でも、キバナくんとの会話が全てダンデに丸聞こえだった今、ダンデが何をどう思っているのかとか、さっきまでは怒っていたり呆れられてはいない風だったけど、でも今はどうなんだろうとか。心中と脳内をぐるぐる答えのないモノが渦巻き過ぎていて、緊張でかたくなる以外の選択肢がとれないでいた。
それでも、このまま黙したままでは何にもならないのは理解しているから。

「……ご、ごめんねダンデ…連絡もしないで、夕食勝手に済ませて…」
「……いや、オレもポケモン達も来る前に軽く済ませたから大丈夫だ」
「そっか…」
「ああ……それに、謝るのはオレの方なんだぜ」

正面を向いたままだったけど、そこで私はついダンデを見上げてしまったら薄暗い中、煌びやかなシュートシティの様々な明かりが映り込んで輝く黄金色と真っ直ぐ合う。

「目元が赤いな……泣いていたんだろう?」
「……っ、」

酷く優しくそれを細めて、とろりと甘く切ない色に私を閉じ込めて、肩を抱くのとは反対の指先がそっと目尻を撫でる。その熱を、ぬくもりを感じた瞬間にもうおさまったとばかり思っていたものが溢れて、ダンデの指を濡らす。

「だ……ダンデはっ…悪くないよ…」
「キミは何時だってそう言ってくれるが……オレがその優しさに甘えた所為で、キミを苦しめたのは分かっているんだ……すまない、ナマエ…」
「ち、がう……私が…っ、私が駄目だから…っ、ダンデの事は分かってるのに…あの言葉は嘘じゃなかったのに…っ、それ以上を欲しがるようになった私がっ…、」
「キミは」

ふるふるとかぶりを振って思わず言い募ろうとする私の言葉を、ダンデの力強い響きが遮る。

「キミは何も駄目なんかじゃない」

なのに、声音とは裏腹にネオンの輝きを受けるその双眸は、別の煌めきに濡れている。

「キミのそれは真っ当な欲だ。当たり前の事だ。なのにオレの事ばかり考えてくれて、自分の想いを押し殺して……薄々気付いていたのにキミを手放せなかったオレが駄目なんだ。キミの事を思うなら、オレはもっと早く解放すべきだったのに、どうしてもキミを失いたくなくて見ないフリをしてきたオレが…」
「ダン…デ…っ」
「今だってそうだぜ……この腕の中にいるキミをオレは離せない。理解していても離したくないんだ…っ」

ぐっと肩を引き寄せられ、ダンデと向き合うカタチに、抱き締められている状態で、ほとんど真上にきたダンデのかんばせを伝ったうつくしい雫が、ぽたりと私の頬をより濡らし混ざり合ってこぼれ落ちていく。

「なあ、ナマエ……オレも思うんだぜ…何故好きなだけじゃあ、駄目なんだろうな…」

ぎゅうと回された逞しい腕の熱が、じんわりと伝わって、好きだなって思う。
私達は二人してどうしようもないくらいお互いを求めているのに、悲しくて苦しくて仕方がないなんて、酷い話だ。

「……っ、好きだよ、ダンデ」
「ああ…っ、オレも、好きだ…愛しているんだ…ッ」

ぎゅうぎゅうと、隙間なんてなくなって。ダンデの熱い暗闇を私はただ濡らす事しか出来ない。私の身体を掻き抱いて、頭に顔を埋めるそこから微かに聞こえる嗚咽が寂しくて、そっと背に回した腕でぎゅうとしがみつく。泣かないでほしいのに、でもその涙すら愛おしいのだ。
だから、もういいかなって思った。ダンデだけで、もういい。他のものは全て諦めて捨てよう、この人のために。最初の私の言葉通りに、それを私達の愛のカタチにしよう。だって、どうしたって私は、私だってこのぬくもりを手放せないのだから。
何より恐怖し私を苦しめていたのは、ダンデと離別する事にたいしてだと気付いてしまったのだから。
今はそう思ってもきっとまたこの先苦しんで悩むんだろうと理解していても、ダンデを失う事の方がそれよりずっと苦痛にまみれているのだと思ってしまった時点で本当にどうしようもない。ちゃんと二人でしっかり話をして、最善を摺り寄せあって妥協点を見つけて二人の未来の事を決めよう。そう思ってでも、今は私もダンデもただお互いの熱を求めて、欠けた半身を埋めるように抱き締めあったまま静かに涙で頬を濡らし続けた。

そうやっている内にタクシーは着いてしまい、そっと涙を拭って降車し帰宅した家で。ダンデとおかえりとただいまを言いあって、お風呂に入ったりだとかいろんな事をしないといけないのに、ソファへ腰掛けたダンデに促されるまま私もその腕の中におさまっていた。

「今日、キミをバトルタワーで見た時は喜びと同時に言いようのない恐怖を感じたんだが、けれどキミの方が怖かったよな……最後の手段と、そこまで追い詰めてしまって、なのにオレはキミの、オレ自身の希みにすら応える事が出来なかった」
「……いいんだよ…私だって付け焼き刃みたいな感じだったし、仕方ない事だから…ダンデももうこれ以上自分を責めないで?」

私ももう自分の事、駄目だって責めるのやめるから。真っ直ぐに視線を合わせて言えば、ダンデは苦笑に近い笑みを浮かべて、それからふうと長い息を吐いた。

「そうだな……ああ、でも、これだけは信じてくれ。キミとのバトルは、とても楽しかった。それは本当なんだ」
「うん……それなら、よかった」

嘘だなんて疑う訳がないし、嘘であっても別によかった。不思議と穏やかな気分でダンデに微笑めば、黄金がほのかな喜色に染まる

「そうだぜ……今思い返せば、ポケモンに指示を飛ばすキミの、あの真剣で必死な表情は初めてみた気がするな」
「それは、ほんとに必死だったからね」
「他にも、予想外の攻撃に狼狽た時の顔も新鮮だった…!」
「だって、しっかり対策してきたはずなのに、あそこであんな技出すなんて思ってもみないよ…」

だんだんと明るさを取り戻す声音に嬉しくなって相槌を打つ。そうだ、やっぱりダンデはこうやって笑ってくれている方がいい。思って、私の寂しく濡れていた胸の内にも、ゆるゆるとあたたかいものが宿るのだから我ながら単純だ。
そうやって、穏やかでありながら溌剌とした声で語るダンデに、本当にポケモンバトルが好きなんだなってしみじみして、さっきの言葉も嘘ではなかったんだと思い知っていた頃。

「……あとは、ああそうだ!あの時、の……、」

意気揚々と語っていたのに不自然に途絶えたので、どうしたの?とダンデを見れば、睛を瞠ったまま固まっている。

「ダンデ?」
「………」
「え、ちょ、どうしたの…?」
「………勃った」
「え?」

一瞬何を言われたのか分からなくてつい問い返すも、返事の代わりに何もない空間を映していた視線が私を捉える。

「ダン……、」

その黄金色に今まで見たことがない、いや、知っているこの色を、この熱は、決して私に向けられる事がなかったあの―――気付いた途端にぞわりと背筋を興奮とも恐怖ともつかないものが駆け巡り「ひ…、」と思わず身を引いてしまう。
けれどソファの上で、結局ダンデの腕の届く距離でしかない私の方にグッと距離を詰めてきて「ああ、いいな…その表情は、二匹目の手持ちが戦闘不能になった時と同じだ…」熱っぽく言ったと思ったら、私が言葉を返す前に一気に近付いて、塞がれる。噛み付くような勢いに怯んでいる間にも舌が捻じ込まれ深さが増す。こんなにもまるで喰べられているみたいなキスは初めてで、困惑する私を他所にダンデは両手で確と私の頭を掴み固定したまま強引に口内を貪る。

「んっ、んんぅ〜…っ」

突然の事に理解が追いつかないうえに、絡み付く舌に意識を持っていかれて思考が上手く働かない。待って。たった、って言った。それは、とそこまでで酷い既視感。これ前にも、思ったところでにゅるにゅると擦りあわされる感覚に夢散する。毎日しているような触れるだけの軽く淡い、こども同士のそれみたいなのとは全然違う。こんなキスは、ダンデと初めてを致そうとした時以来な気が。そこまでで、一旦離れたのを見逃さず、直ぐに角度を変えてまたあわさろうとしていた微かな隙間に手を差し込んで自分の口を覆う。

「……ま、待ってダンデ…っ」
「…………」

慌ててかけた待ったに、超至近距離で開いたままの口唇から熱い息を吐き出すダンデの眉根がどこか不服そうに寄る。

「手を、退けてくれないか…?」
「い、いや、うん…その…待って、理解が、まだ…」

しどろもどろの私にダンデは、潤いを増した双眸を細める。そこでやっと私はその水の膜が、熱で浮かされたものだと、興奮からもきているのだと察して、けれど遅かった。

「言っただろう…?」

口元を隠しているのとは反対の手が掴まれて、その熱さに戦慄く暇もないまま誘導された掌に触れた布越しのぬくもり。やわらかいようで硬い膨らみが、何かなんて。視界の隅にも自分の手があるのがダンデの股座だという事実が映り込んでくるせいで、視覚的にも答えは簡単に導き出されてしまう。

「……っ、あ、ゃ」

たった。そうだ漢字は勃っただ。デジャヴを思っている場合じゃない。ダンデの大きな手で上から押さえられているせいで、ぐにぐにと握るように触れてしまって途端に羞恥と混乱に慌てる。なのに、そんな私の静止をまるっと無視して、今度は口を覆う方の手の甲に熱く濡れた感触が這って、下に向いていた意識と視線が戻って、後悔した。
ぴちゃりと、私の手に舌を這わせながらダンデはじっと私を見つめていた。黄金色に確かな欲情の熱を、隠そうともせず、むしろ私をその炎で燃やし尽くそうと言わんばかりに灼熱の檻に捕らえてくる眼差しに、知らない、と反射の速度で思う。こんな、こんな瞳は知らない。自慰をしていた時であっても、こんな、こんな色は。

「ン……ナマエ、ナマエ…手を…っ、」
「ひっ…ぁ、や…舐めな…ァ、」

ぬるりと、指の付け根の窪みに舌先が潜り込もうとしてきて、擽ったさと同時に言いようのない、ぞわぞわと落ち着かない感覚に肩が跳ねる。どうしていいのかの判断がつかないでいる私に、焦れたようにダンデは頭部を押さえていた手で手首を掴むといとも容易くはぎ取ってしまう。あ、と露わになった口唇が震える間に喰らわれた。
両の手ともに拘束されたまま熱い熱い舌に焼き焦がされ、薄れかけていたはずのアルコールで脳がぐらぐら揺れ、呼吸すらうまく出来なくなった頃ようやく解放されても最早虫の息の有様で。くったりととろけた私をけれど、ダンデは逞しい腕で確と抱きかかえ、そのまま連れられたのは寝室で。そっと寝かされた私を跨ぐように膝をついた瞬間の、ギシリとスプリングの軋む音が嫌に生々しく聞こえて。
けれどもう、ぼんやり見上げた先のダンデに待ってとは言えなかった。真っ直ぐに私を見下ろす眼差しは火傷しそうなくらい熱いのに、そこから雫がこぼれ落ちていたからだ。その様が見惚れる程にうつくしくて、その雫に溶け出した感情が何か知りたくて、気付けば手を伸ばしていた。




アラームの音に叩き起こされて一瞬で意識は浮上し、少し離れた位置にあるスマホへと手を伸ばすのに僅かに身をもたげた瞬間走った腰の痛みにあえなく突っ伏し身悶える。
え、なに?と思わず寝起きの脳で混乱するも、ごそりと蠢く気配と衣擦れと共に私の頭上を影が横切り、アラームが鳴り止むと戻ってきたそれは私の身体に緩くまわされた。心地よい重さのぬくもりに、反対側を向けば、ふわふわと眠そうにとろけた蜜色が私を見つめていた。あまりにも優しく細められた双眸のまま「おはよう」と口を開くものだから、私も脊髄反射で返そうとしたのに出てきたのは酷く掠れた声で自分で驚く。

「ああ……すまない、昨日はいっぱい鳴かせてしまったからな」
「…………」

そんな私に眉を僅かに下げつつも、どこか嬉しそうに言うダンデを見つめて、やっと昨夜の事を思い出す。そうだ。そう、ダンデと致したのだ。現実味がないくらいなのに、身体に残る倦怠感が物語っているのがなんだか妙な気分だったけど、夢なんかじゃなく、現実だ。

「……私も、だけど…ダンデも、睛がちょっと腫れぼったくなってる…」
「そうだな…」

いっぱい泣かされて、鳴された私よりはあれだけどダンデも最中に結構涙を流していたのを思い出しながら、そっと目尻を撫でたら少し恥ずかしそうに、でも猫のように手に擦り寄ってきた。嬉しくて、幸せで、苦しいんだ、ってそう感極まったように泣き笑いながら、私の身に縋るみたいに何度も腰を押しつけてきた姿を覚えている。それに感化されて私も余計泣いてしまった事も。

「ふふ、幸福で…こんな朝をオレは知らなかったぜ…」

ふくふくと秘めやかに笑いながら私の身に回した腕の円を狭めて、接触する面積が増えるのと比例するように私もなんだか幸せな気分で知らず微笑んでしまう。
ダンデは日課の早朝ランニングをサボって、私も起床時間なのにこうしてゆるゆると、未だ微睡みとの境のような淡い光の中を抜け出せないでいる。でもそれでもいいかなと思うくらいには私もダンデもまだ起きる気がなかった。

ただ、私の方は若干切実に起きたくない気持ちもあった。原因は、さっきの腰の痛みだ。

そのおかげでいい感じの雰囲気に、いい感じに綺麗な記憶として昇華されそうでいて、ちょっと出来なかった。
何故ってそれは、ダンデとやっと繋がる事が出来て幸福に満ち満ちていたとはいえ、抜かずの三発をしたあともダンデは何度も体位を変えて私の身体にその熱の全てをぶつけたからだ。
記憶が鮮明になるにつれて、頭を抱えそうになるくらいには最後の方は息も絶え絶えで、正直死ぬかと思った。腹上死とか笑えない。
まさかこうなると思ってもみなかったから、ゴムなんて買ってなかったおかげで殆ど中に出された気がするし。いや、それは私も念願叶って嬉しかったから感受してしまったとはいえ。数えきれないくらい達して、気持ちいいが辛いくらいになっても、でも終わらなくて。限界を感じもう無理と必死で訴えても快楽に濡れそぼった甘ったるい嬌声じみた声音ではダンデを止める事なんて出来ず、むしろ嫌だもっとまだキミが欲しいんだと貫かれ揺さぶられ、許容量を超えた脳がシャットダウンするように意識を手放したのだろう、そこで記憶は途絶えている。
しかし今、眼前で酷く幸せそうにうとうとしているダンデの、ちっちゃいこみたいに純真な輝きで射し込む朝日に淡く煌く黄金を見てしまえば、そんな事を蒸し返す気にもなれずに。私はただそっと一人で、今日はまだ残ってる有給使って休もう…と心に決めた。


こうして私は付き合って二年目にして恋人が絶倫だと知った。
なんのスイッチがどう上手く入ったのかは分からないし知らなかったけど、それ以降ダンデは私にたいして勃起するようになって。けれど向けられて初めて分かったその性欲の強さに、こどもはもう少し落ち着いてからの方がいいかな(ダンデの性欲が)という事になりゴムを大量に買ったものの減りの早さがちょっと、だいぶ、かなり怖いくらいだった。
しかしそんな事を言うと贅沢な悩みなんだろうなと思ったし、ダンデが日々幸福そうなのでまあいっかと流す辺り、私もまたダンデにでろでろに甘いという事なんだろう。
事のあらましをダンデから大雑把に聞いたらしいキバナくんとネズくんからは、後日何故か労られた。何でと困惑しつつもお騒がせして申し訳ありませんでしたとの謝罪も軽く流され、祝福もされたのでいい事にしている。
ダンデは、オレを見限らないでくれたキミのおかげなんだぜと、何だかより前にも増して私にべったりになっていたし、先日掃除してる時にたまたま見つけた睡眠薬に眠れないの?と軽く訊いたら。

「いや、キミと万が一別れる事になっていたら、苦しまないようにそれで眠らせてからにしようと思って準備していたものだぜ」

と、まるでなんて事ない風に、綺麗な所作でナイフを使い切り分けられた、夕食の白身魚のムニエルを笑顔でにこにこ、美味しそうに食べながら言われて思わず自分のぶんのお皿に突っ伏しそうになったのは仕方ないと思う。
解放ってそっちかあ…と内心遠い睛をして、とりあえずその言葉はスルーして、薬は次の日のゴミに出しておいた。よく燃えてくれると嬉しい。

20201010

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