肥沃な大地を数多のスコルポノックが蹂躙していく。個々の戦闘能力もそれなりなうえ返り討ちにあっても、それを補って余りある数の多さが彼等の武器ともいえる。殺しても殺しても湧く虫にはさぞ嫌気がさしているだろう事も想像に難くない。経験者だし。
それに金属の蠍を殺せば殺す程、後の災厄に目をつけられる確率は高くなるのだから無理ゲーでは?と思ってる間に、禍々しい形状の球体が敵の胴体へ直撃して金属のひしゃげる音が聴覚センサーへ酷い雑音として響く。
他の善戦している敵も、気付かぬ間に忍び寄っていた刃の餌食になっている。ご丁寧に両の腕を斬り落としてから最後に無力感にまみれた頭部を刎ねる光景は見るに堪えない。
リーダー格のように思えた機体は攻撃を軽くあしらわれては手加減された一撃をくらう繰り返しで、矜持を弄ばれている様が酷く哀れだった。
圧倒的な力で殺戮の限りを尽くすのを、土煙も届かない上空で眺めていれば不意に吹っ飛んできた頭部を僅かに翼を傾けて避ける。

「……あっぶな」
「なんだそこに居たのか」

まるで手が滑ったとでも言いたげなバトルトラップの様子に、気付いてたくせにと言葉を飲み込む。

「ちょっとぉ、アンタも仕事しなさいよ」
「えー、もうほぼ終わってるじゃん」

それに手を出したら出したで、獲物奪ったとかで怒るでしょ……。上空にやってきて文句をいうナイトバードにもスパークの内だけでつっこむ。

「その有様でよくテラーコンを名乗れたものだな」
「まあ、ユニクロン様にはチューセー誓ってるし」

というか、テラーコンだけど、あんたらと一緒にされたくないんですよこっちは。という言葉は勿論発声しないままスカージへ、へらりと笑顔を向ける。
あ、バトルトラップがまた倒した死骸をクレーンで引き摺ってる。エグい。その様に敵も戦意を喪失しかけてるけど、私だって引いている。そんなバケモノでも見るみたいな眼差しでこっちまで見ないでよ、と思いながらドウシテコウナッタと現実逃避した。

戦うの嫌だし、わざわざ死ぬ目にあいたくないし、戦争とかくそじゃん〜という精神によって、さくっと故郷の星を離れて悠々自適に宇宙を放浪する日々で。ある時滞在していた惑星が不運な事にユニクロンに目をつけられた。
実物を見たのは初めてでもその存在くらいは知ってる、惑星を食べるいきもの相手では規模がでかすぎて逃げるの間に合わないとかナニソレ死亡フラグじゃん、ヤバ。とはいえ流石にウケるとか言ってる場合じゃなかったから、迫るスコルポノックやスウィープスをちぎっては投げし、豪速のチェーンメイスを華麗にかわし、しつこい刃をどうにか撒いて、怖すぎる電気爪から間一髪逃れ、オルトモードがジェット機で良かったと心底思いながら、まだギリギリ食事前だった巨大な顔の前まで飛んでいって部下にしてください!と恥も外聞もなく床に額のパーツを擦り付けた。
その甲斐もあってか無事にユニクロン様に力を与えられテラーコンの一員になったのだった。ヤッタ!めでたしめでたし!テラーコンになったおかげでそうそう死なないしこれは今後の生活イージーモードなのでは?
ーーーと思ってた時期が私にもありました。
そう、世の中そんな甘くなかった。ユニクロン様は気に入らない成果だと容赦なく死にそうな苦痛を与えてくるくせに、ちゃんとお仕事こなしても一言の労いもないくそ上司だった。特にマクシマルによってトランスワープ・キーの行方が分からなくなってからは酷いものだ。パワハラだパワハラ。
同僚はお仕事熱心で偉いけど、戦い方が残虐すぎて正直ドン引きなんですねこっちは。バトルトラップのクレーンが死骸を引きずるためにあるとか、ナイトバードの恐ろしいまでに優れすぎた暗殺技術とか、スカージの残虐さと殺した相手のインシグニアを奪って自分の機体に戦利品として飾ってるとことか。
殺すの大好き!と言わんばかりの同僚と、戦闘嫌いで日和見主義の私では価値観の相違が激しすぎてついてけないんですね正直。
毎回ヤダよーエグいよー怖いよーと、スプラッタシーンからはそっと視覚センサーを背けているこっちの身にもなってほしいものだけど、悲しいかな少数派は私というこの世は無常。
私は最低限苦しませないようにさっくり殺してあげてるっていうのに。この優しさをもうちょっと見習ってほしいものですね。
たまには惑星観光〜とかも全く出来ず、むしろユニクロン様からはさっさとキーを見つけろサボるんじゃねえぞレベルの雑な扱いをうけ、仕事(殺戮)熱心な同僚のおかげで殺伐とした仕事に次ぐ殺戮の日々。
ヤダー!ブラック企業じゃん!と気付いてももう遅い。一度テラーコンになってしまったが最期、死ぬまでテラーコンなのだ。退職不可とかくそすぎじゃん?そういうの契約時に言うべきでは?訴えたら勝てるんじゃない?その前に殺されるだろうけど!……つら。

そんな事を思い出して、幸せが尻尾巻いて逃げ出しそうな溜息を吐いていると「どーしたのぉ?」と手頃な敵を全て殺し終えたナイトバードが寄ってくる。

「えー、テラーコン向いてなさすぎるから転職したいなーって」

冗談っぽく本音をこぼしてみれば、ナイトバードはしみじみと私を眺めた。

「そうねえ、同意するし、アタシとしてもさっさとテラーコン辞めてほしいかしら」
「わ〜、辛辣ゥ!え?私じつはナイトバードに嫌われてた?」
「違うわよぉ、アンタの事は大好きよ」
「ありがとー!」

女子同士できゃっきゃしてたら「姦しい事だ。だが、好悪は別としてナイトバードには同意だな」スカージが口を挟んできて、その後ろでバトルトラップも首肯している。ちょっと、女の子の間に入ってこないでよ男子〜。一部の百合過激派に消されてもしらないんですけど。

「だよね〜、私みたいなのはやっぱり平和にどっかですごしとくべきだよね」

満場一致の向いてないだ、同僚は私が思ってたよりも理解があったらしいと喜んでたら「いや」とスカージが続ける。

「お前がテラーコンでなくなれば、ユニクロン様が始末する前に俺が殺してやろうと思っているだけだ」
「え」
「ちょっとぉ、それアタシが言おうと思ってたんだから抜け駆けしないでくれる?」
「……え」
「前は避けられたが、今度はこのメイスでその機体を潰してやるのが楽しみだな」
「…………」

いたって普段と変わりない口調が逆に恐ろしい。口腔パーツが急に錆びついた気がしながらもどうにか動かす。

「コ……コレカラモ、テラーコントシテ頑張ルネ……」

私の言葉に三者三様、酷く愉しげに笑う気配。それにようやく今更、私の人生がとうの昔に詰んでいる事に気付いたのだった。

2023/08/22
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