※現パロ転生審神者記憶なし日光記憶有り



「日光さんみたいなカッコいいひとがわたしの事好きなんて簡単に信じられるわけないじゃないですか」

入相の気配にテラス席の人影はまばらで、そんな奇特な客の一組のなか、声を抑えるのを忘れぼやくような口調になってしまったにも関わらず、機嫌を損ねただろうかと反射で窺った先で日光さんは薄く口の端を上げるものだから戸惑う。甘ったるい季節限定フラペチーノのストローを齧りながら思わずなんですかと問えば、コーヒーを一口ののちに、何、とその淡い青紫の双眸すら細めて「お前が俺を格好良いと、そう思っているのだと知れて喜んでいるだけだ」そうのたまった。

ある日突然わたしの日常に現れて以降、こうして度々オープンな空間で時間を共有するこのひとの事はまだ知らない事の方が多い。社会人だという情報くらいしかインプットしていないともいう。何故だか会う事を拒絶できない自分の気持ちに反発するように、距離を縮めたいと思っていないあらわれとしてプライベートな質問をなにもしていないからだ。
いつだってぐだぐだと、とりとめもない雑談ばかりだというのに飽きもせず無意味な会話を向こうから止める気配は未だない。
カフェやファミレスに入れば大体コーヒーを頼む事くらいしか知らなくとも、頭の良いひとで、本来ならばこんな女子大生の中身のない戯言に付き合うような人物ではないにも関わらずだ。

「そんなの言われ慣れてるでしょ……」

つい臆してぶっきらぼうに呟くと、今度こそふっと明らかに笑う気配。

「好いた相手に言われねば意味がないであろう」

そうして大真面目に堂々とそんな事を恥ずかしげもなく言うので、呆れよりも劣等感よりもこのひととは本当に人種として違い過ぎるのだといっそ清々しく納得する事となったし、正直そろそろ降参だった。

2023/08/22
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