※生存ゆるふわ謎時空



芝生の青がひとつひとつ、陽の光にきらりと艶めいているお庭でのティータイム。アンティークのガーデンテーブルとチェアは碧に映える白さで、まあるい天板はパンチング模様で彩られ、脚のぶぶんは曲線の装飾がかわいらしい。
別荘のお気にいりのそこで、淹れたての紅茶には繊細なお花の細工が施された角砂糖をぽちゃんと沈ませて。音もなくちいさなちいさなあわと一緒に、ほろほろと崩れていくのをそっと見つめてからスプーンで混ぜる。

「あら、その色」

銀のスプーンが陶器のティーカップに時折触れてはカチャと音がする、その隙間にするりと忍びこむような声に顔をあげた。

「気づいてくれた?ナイトバードちゃんの睛とね、おそろいにしてみたの」

スプーンを摘む指先は、昨晩丁寧に丁寧に塗ったおかげではみ出たりとかそういうのも一切ない、赤紫色に染まっていた。
見上げた先のナイトバードちゃんの綺麗な、ロードナイトガーネットも負けちゃう輝きには到底及ばないけど、彼女は「ふふ、似合ってるわぁ」と笑ってくれた。
車庫にあった高級車を無造作に持ってきて、そこへ腰掛けるナイトバードちゃんは優雅に足を組んでまるで女王さまだ。わたしにとっては天使さまだったけど。

黒いフリルがふんだんにあしらわれたワンピースだってナイトバードちゃんが、これが一番似合うって言ってくれたから、ほんとは白とかピンクが好きだけどクローゼットの中は黒一色。
近隣のひとは、わたしが未だ喪に服しているのだと思って、両親を事故で亡くしたかわいそうなこを見る眼差しを向けてくるけど、ぜえんぜえん違う。わたしに劣情を催してたおとうさまが、それを見て見ぬふりしてたおかあさまが、生きてた頃の方がよっぽどかわいそうだったわたしの事はだあれも知らない。
事故。事故と処理されたし、実際事故だったけど。半壊したおうちの、崩れた天井や棚の下敷きになってぐちゃりと潰れたおとうさまとおかあさまの死の要因はナイトバードちゃんだった。たまたまわたしの家の近くで戦ってて、たまたま投げた爆弾が直撃しただけの事故。だけど、地面へ着陸した彼女の機体を壊れた壁から見た瞬間、天使さまだと思ったのだ。わたしを地獄から救いだしてくれた、天使さま。
壊れてしまったおうちからお引越しした、おとうさまの所有していた別荘は、敷地の境が背の高い木々で囲まれているから外からは見えないし、気まぐれに訪れる彼女との逢瀬にはぴったりだった。

「アンタって、ホント可愛いわねぇ」

蜜のようにどろりと甘い声でナイトバードちゃんが笑う。彼女が似合うというものだけで着飾ったわたしは、それでも嬉しくて、とってもしあわせで、にっこり笑い返す。

「ナイトバードちゃんの方が素敵よ」

気まぐれで残酷で美しいナイトバードちゃん。
わたしの事だって暇潰し程度のおもちゃ、彼女のためのお人形さん。飽きたら簡単にポイって捨てられるって理解していても、その日さえ楽しみでしかたない。
欲をいうと彼女に殺されたいけど、そんな価値もきっとない。だから彼女を楽しませるために断頭台までの階段を、わたしは真っ赤に焼けた鉄の靴を履いてでも華麗に踊りきってみせるのだ。

2023/11/13
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