※生存ゆるふわ謎時空



これをやろうと差し出されたそれに手を伸ばす事なく苦笑いをしてしまったのは、しかたない。

「それって、戦利品でしょ?」

言外にいいの?という問いかけも、正しく受けとられてけれど。

「お前にならば構わん」
「それは、ありがとう」

シルバーの、わたしのてのひらより大きく平たい金属は、なにか顔を模したような造形で、意味するところを一応知っていた。スカージの仮面と意味合いは同じで違うそれ、オートボットという彼とは異なる勢力をあらわすインシグニア。
唐突にプレゼントされそうになっているそれは、そもそもさっきバキッとスカージの身体からおもむろに剥がされたものであり、彼の戦利品であり、つまり今までに彼が殺した相手が身につけていたものなのだ。
トロフィーみたいな、そんな大事なもの貰っていいのかなと思う以前に、その裏へ死がこびりついたものを受けとる勇気が残念ながらわたしにはなかった。

「どうした。ああ、オートボットのものでは気に入らなかったか?ディセプティコンでもマクシマルでも、レッカーズやエリートガードでも好きなものを言うがいい」

そうじゃないんだなー……と言えればどれほどよかったか。戦争と殺戮があまりにも身近なスカージと、地球でごくごく普通に平和に過ごしてきたわたしとでは、こういう時に感覚の違いを思い知らされる。
一応、好意故の行為だとは理解しているので断りづらい。断ったら静かに凹まれそうな気がするし、それはわたしの望むところじゃなかった。

「気持ちだけでじゅうぶんだよ、スカージ」

悩んで結局無難な言葉をかける。これ以上無理強いはたぶんされないだろうと思ってしかし、インシグニアを差し出す手はそのまま。

「スカージ?」
「……俺にはお前に与えられるものなど他にない」

静かに、ぽつりと呟かれた言葉に睛を瞠る。
そうしてから、なんだ、と思った。思ったまま、笑って「ちょっとそれ戻して」彼の右手を塞ぐそれを手放してもらう。

「はい」

おとなしく、しかし渋々といった感じで溶接し終えた頃、両手を上げて促せばそっと右手が胴を掴んで、靴裏が地面と離れた。持ち上げられ、一気に近づいたスカージの顔へ触れる。不安定さを拭うように左腕を足元へそえて踏ませてくれるのだから、優しいというよりも大概わたしに甘い。

「そういう時はね、愛情たっぷり込めてキスのひとつでもくれたらいいんだよ」

仮面に覆われていない口元へくちびるを寄せてから笑って言えば、西日にも似た眩しいオレンジが瞬く。
その様が可愛くてくすくす笑っていたら塞がれたので、今度はちゃんと受けとったのだった。

2023/11/12
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