『雄弁な青、沈黙の赤』のつづきでおわり



「ん?ああ、ダイジョーブだってプライム。ちゃんとおとなしくイイコにしてるさ。ノアに訊いてくれたっていいぜ」
「俺を巻き込むなよミラージュ」

うん。

「通信終了っと。いやでもマジで真面目に折角のデートでも、ハシャギ過ぎないよう気をつけてるってのに」
「日頃の行いのせいだろ」

うん?

「おいおいノア、お前までそんな事言うなよ!相棒だろ?」
「そのうち連帯責任とらされそうで嫌なんだよ」

うーん。



お邪魔したガレージでミラージュの点検中だったノアに挨拶もそこそこのタイミングで入った、オートボットのリーダーからの急な通信はけれど緊急案件とかではなく、ちゃんと人目につかず過ごしているかという定期的な釘のようだった。
ちくりと刺されたミラージュはもうウンザリという様子で、でも声音だけは真面目ぶった感じに答えてどうにか通信終了。思慮深く厳格なオプティマス・プライムにとってはたぶん今この地球上で一番“なにかしでかす”可能性が高いのはミラージュなのだろうし、彼のそれは間違っていないあたりがなんともなので「まったくプライムにも困ったもんだぜ!急に連絡してきたと思ったら、羽目を外していないかってくどくどくどくど!ちょうど愛しのダーリンが俺に会いに来てくれたってのに!」タイミングも最悪過ぎだろと、点検も終わったのか変形し、ガシャガシャこちらへ歩み寄ってきながら捲し立てるミラージュの反省のなさに苦笑い。
ノアもまたその様子を見ながら呆れたように笑ってたけど、二人でごゆっくりどうぞという様子でガレージをあとにする。そんな彼の背を感謝の気持ちで手を振って見送り、そうして見上げた金属のおもてはさも面白くないと言わんばかりで。

「抜き打ちテスト受けた学生みたい」

ついくすくす笑ってしまった。

「ああ、まさにそれだ!今の気分にピッタリの言葉だぜ!けど残念ながらキミのキュートな笑顔が見られただけで気分はご機嫌、アップテンポなナンバーで踊り出したいくらい絶好調!さあ、お嬢さん、ここをダンスホールにでもしましょうか?」
「ふふ、ご機嫌ならなによりだけど、遠慮しとくね」

そう返しながらも、お手をどうぞといった体で差し出された金属の指にそっと手をそえる。触れ合いにミラージュの表情はより嬉しそうになるのだからそんなに簡単でいいんだろうかと思うけど、そんなミラージュにわたしもご機嫌になってしまうからおあいこにしておく。
でも、それにしても、やっぱり。

「ミラージュって、わたしにだけうるさい?」

前から薄々思ってて、さっきの会話でだいぶ確信した事がついぽろっと口から出てしまう。ミラージュはお喋りで賑やかな方とはいえ、他のひとにはもうちょっと静かというか、わたしにたいしてだけよりテンションが高いというか、そんな事にふと気づいてしまったのだ。
わたしの言葉にミラージュは「え?」と一瞬何を言われたのか分からない反応のあと。

「は?俺ってそんなうるさかった?マジで?あ〜……!いや、そんなつもりはなかったんだ……」

なんてこったと睛に見えて気落ちするミラージュに慌てる。

「ごめんね、言い方が悪かったね。ええと、ミラージュわたしとお喋りする時が一番いっぱい喋るし賑やかなの、なんでかなって」

指をぎゅっと握ってどうにかマイルドな言葉選びで質問を変えれば、青く綺麗なオプティックが瞬く。

「それは当たり前だろ、キミに伝えたい事は俺のスパークに山ほどあって溢れてやまないんだぜ?どれだけ言葉にしても足りないこの愛おしさを、これ以上どう伝えたらいい?」

当然のように、真摯に、でも迷子みたいに。真っ直ぐわたしを見つめて言うミラージュに、じわじわ顔に熱が集まるのが分かってしまった。今とても恥ずかしくて嬉しい事を言われた気がすると思考の方が遅い。何も返せないでいるわたしに、何を思ったのか「ああ、そうか」不意にぽつりと金属の口唇からこぼれ落ちる。

「わっ」

そうして掴んでた指が離れていくのも束の間。両の手でそっと左右から掴むようにやさしく持ち上げられて驚く。咄嗟に宙に浮くあしもとへ向いた視線を、どうしたのかと問うために上げたら「っ……」すぐ目前に青く輝く光があって。でもそのうつくしさも見えなくなった時には、くちびるに、ひんやりと硬質な冷たさ。

「だから人間ってのは、これを愛情表現にするんだな」

少し離れてまた視界いっぱいのまばゆい、満足げな青に照らされたわたしは、きっとそれはそれは赤くなっているのだろう事だけは確かだった。

2023/09/10
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