「ねー、その眼鏡って伊達?」

大学のカフェテリアでひとりで本を読んでいた僕に話しかけてきた相手は僕とは何もかもが真逆の同学年の男だった。

「……………度入ってるけど」
「だよねー。だと思った」
そう言いつつ男は僕の前の椅子に座る。なんで座るんだ。なんでそんな事いちいち聞くんだ。そもそも名前は何て言ったっけ?と思いながらも口には出さず、代わりに甘さ控えめのカフェオレを口にした。

「目悪くて良いなー。うらやましい」
「…そんな事初めて言われた」
「そう?眼鏡って頭良さそうに見えるじゃん。俺視力2.0だから眼鏡かけらんないんだよね」
「伊達眼鏡かければ良いじゃないか」
「んー。伊達は所詮伊達じゃん?純粋に度入りの眼鏡じゃないと意味ないっしょ」

この男には眼鏡に対するちょっとおかしな意地があるようだ。
ちらっと男の顔を見る。瞳は青く、色白で髪は金に染めていて、目鼻立ちがすっとしているからこの学内でも目立つ上に、ぱっと見ると外国の青年に見える。

そういえば。
「ちょっと聞いて良いか?」
「え?何?」
「カラーコンタクト着けてると周りの景色ってその色に映ってるの?」
「んな訳!ちゃんと普通に見えるよ」
「へえ、そうなのか?」
「ま、俺も最初着ける前はワクワクしたけどね。コレ着けたら俺の世界は青に変わるんじゃねえか、それってすげーなって。着けた瞬間かなり萎えた」
「ふうん」
「あ、俺そろそろ行かなきゃ。今日デートなんだよねー、じゃな」
「ああ、じゃあ」


いきなり話しかけてきて、どうでもいいような話をして帰っていった。変な奴だと思った。

*





昨日あいつと話したカフェテリアの席で携帯をいじっていた。そういえば今日はまだあいつの姿を見ていない。
「おはよう」
背後からあいつの声だ。
「おはよー……ってか…ん?」
いつもかけていた眼鏡は無くて、代わりに青い瞳がこちらを見ていた。
「カラコン着けたんだ?」
「ああ…これ。君の言う事は本当なのかなって思って買ってみたんだ」
「へー。俺を疑ったのね」
「本当に普通なんだな。なんか拍子抜けした…」
眼鏡が無い姿はなんだか幼く見える。

「でもさー」
「うん」
「空はめっちゃ綺麗に青く見える気しない?」
俺は空を指差す。空を見上げた。

そしてゆっくりと
「…うん、そうだな。綺麗な青だな」


俺は砂糖たっぷりのカフェオレを一口飲んだ。それはとても甘くて、体に染み渡った。思わず笑みがこぼれ出た。

そういえば。

「名前何ていうの?」









(2010.3.9)
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