「あ」
「何」
「ジュッてやるの忘れてた」

私たちは今ホットケーキを作っている。やることが無くて、お腹も空いて、我が家の冷蔵庫を開いたら牛乳と卵があった。流しの上の戸棚を開いたらホットケーキミックスがあった。これだけお膳立てが整っていればホットケーキを作らない訳にはいかないだろう。

「今ならまだいける!いけー!」

生地を乗せたフライパンが塗れ布巾に一瞬冷やされた事によってジュッと小さな音を立てた。ふー間に合った、と安堵の声を漏らす彼はおもむろに尋ねた。

「なー、なんで一回冷やすのかな、フライパン」
「えー?そうだなー…熱しすぎるとすぐ焦げて駄目になっちゃうからとかじゃない?」
「あー、まあね」
「そしたら恋愛と一緒だよね」
「え?どういうこと?」
「ほら、最初から相手の事大好きすぎると案外すぐ駄目になったりしない?そこんとこなんかホットケーキに似てない?」
「あ、表面プツプツしてきた」

スルーすんなよと言いながら彼に蹴りを入れた。いってー、と表面上痛がる彼は片面焼けた合図を示したホットケーキをひっくり返しながら呟いた。



「でも俺は大好きすぎるけどね、最初っから」








うわ、胸が、痛い。
(私だって大好きだ)
(2010.11.06)
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