あたしは彼の眼鏡が大好きだ。黒縁で、四角くて、少し細身なスタイルで、堅く見えるけど目立たない所でやさしいフォルムをしている。彼には内緒だけど、実は彼本体じゃなくて眼鏡に恋してる。たぶん、彼にあの眼鏡が掛けられていなかったらあたしは彼にアプローチしなかった。いや、たぶんじゃなく絶対。



眼鏡が無い!と彼から悲痛の声で電話が掛かってきたのは彼の家からの帰り道の途中だった。

「ちゃんと探したの?」
「今探してるけど…やっぱり無いよ」

当然だ。だって今あたしがその眼鏡を持ってるんだもん。あまりにもこの眼鏡の事が好きすぎて持ってきてしまった。
彼の言葉を適当にかわしつつ、眼鏡を見つめながら歩く。うん、やっぱりかっこいい。かっこいいけど…あれっ?

「もうコンタクトにしちゃうかな」
「それはだめ!」
「ははっ、即答だな」
「いいから今からあたしの事追っかけてきて」
「え?なんで」
「眼鏡、鞄の中から出てきたから取りに来て」

と言い残し電源ボタンを押した。そして今来た道を戻る。
手の中の眼鏡を見つめる。やっぱりかっこいい。かっこいいけど何か違う。自然に早足になる。何が違うか分かった気がするけど、本当に合っているのか早く確かめたい。

向こうから背が高く、ちょっと細身な人が歩いてきた。彼だ。彼は相当目が悪く、前使っていた眼鏡を掛けていた。
「眼鏡ありがとう…って痛っ!」
「………………やっぱり」
あたしは彼が掛けている眼鏡を無理矢理剥ぎ取って無理矢理かっこいい眼鏡を掛けた。やっぱりそうだ。この眼鏡だけでは足りない。この眼鏡を掛けた彼ごと好きなのだ。

「何がやっぱりなの?」
「ん?やっぱり好きだなーって思ったの」
「…眼鏡掛けてなきゃ嫌い?」
「そんな…事…は……ないよ」
「うわっ嘘っぽい!」
「嘘じゃないよ!」

そう、嘘ではない。だってさっき彼に向かって歩いてくる時思った。眼鏡と彼は似ている。
「試しに眼鏡取ってみて」
はいはい、と言いながら眼鏡を取った彼にちゅっとキスをした。
「やっぱり大好き」
「…………反則だろ…」
そう言って彼は眼鏡を掛ける。真っ赤な顔に眼鏡もなかなか良いものだ。












(2010.05.20)
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