「痩せに来ました。」
「なるほどねー。」

私の目の前でうんうんと首を縦に降る女性は笠松先輩から紹介された,相田リコさんという方らしい。誠凛の校門に着くなりここではなんだからと言ってマジバーガーまで連れてこられたが,どう見ても普通の女子高生にしか見えない。本当にこの人がバスケ部の監督を?笠松先輩が言っていた言葉を思い出し真相を確かめようか確かめまいか迷っているところで彼女が先に口を開いた。

「で,メニューを作って欲しいわけだ。」
「はい。」
「これまでに痩せようと思ったことは?」
「ほとんどないです。…現状に満足していたわけでは無いんですが。」
「動機が無かったのよね。んじゃあ,肝心なとこだけど…早く痩せたい?」
「はあ,できれば。」

んー,そうねえ…顎を抑えて考えるポーズをとり,人差し指でリズムを刻みながらテーブルを叩く彼女の動作が急に止まる。

「ちょっときついかもだけど,いいかな。」

うん,と一人頷き今度はメモ用紙とボールペンを鞄から取り出し止まることなく手を進め始めた。どうやら,何か良いメニューを考えたようだ。



「はい,できた!」
「あ,有難うございま…」

す。最後の一文字はすっと腹の奥底に消えていった。え,これ,嘘だよね。10分程一人寂しく烏龍茶をストローですすりながら待っていたが,やっと出来たらしい。できたの掛け声と同時にリコさんから渡されたメモ用紙を見るとそこには,目を瞑りたくなるくらいに文字が埋め尽くされていた。筋力トレーニング…体幹トレーニング…ジョギング…ウォーキング…。こんな量を私がこなすことができるのか,ふらふらと頭が回ってきたところで大丈夫大丈夫と明るい声が頭上から響く。

「名前ちゃんならできるわよー!」

その根拠はどこから湧いてくるんですか,勿論そんなこと言えるわけがないが。「そ,そうですかねー?」あははと乾いた笑いを浮かべながらリコさんの方を見ると,目に鋭い光を宿らせながら「勿論,今更やめますとかは無しにしましょう?」と言い放った。



まさか,こんなにきついメニューが出来上がるとは思っていなかった。流石,高校生男児のバスケットボール部員を自ら指導しているだけある,と言ったところか。聞くまでもなく彼女が監督であることに間違いはないと確信はついたものの…果たして私はギブアップをしないでいられるだろうか。

取り敢えず家に帰った私は書いてあるメニューを書いてある通りこなし(休憩が多めではあったが)いちいち結果報告をしろとまるで誰かに縛られるようなダイエットになってしまったが言われたものは仕方がない,先程教えてもらったメールアドレスに「終わりました」と疲れ果ててげっそりしている絵文字を添えつけて送ると「明日も頑張れ」と可愛いハートマークが付けられて返ってきた。ちょっとばかり頑張れるような気がする。




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