「笠松先輩,こんにちは。」
「…苗字?」

久しぶりですね。ニーっと口角を上げて印象よくそう言い放つと,彼は少し戸惑ったように辺りを見回してからまた私に向き直った。無理もない,私は誰が見ても認めるであろうデブでブスな醜い女なのだ。そんな私と話しているところを誰かに見られたくないのは当然のことであろう。まあ今はそんな彼の些細な行動ごときにいちいち腹を立てていても仕方がないのだ。周りに誰もいないことに安堵し肩の力がようやく抜けたのか,ふーっとひと呼吸を置きおずおずといった感じで言葉を吐き出す。

「あ,相変わらずだな。」

相変わらず,それは相分からずカッコデブだなカッコ閉じるという意味として受け取っていいのだろうか。それとも受け取れという意味だろうか。ほんの少し,アリぐらいの大きさほどむかつきはしたもののこんなことに食いついていたら拉致があかない。そのため囁かな皮肉を込めて言葉を交わす。

「笠松先輩も女性が苦手なのは相変わらずですね。やっぱ彼女居た歴イコール自分が生きてきた年の数なのでしょうか。」
「ぐ…。」

眉根を寄せて言葉を濁す彼の表情を見ていたら先程の怒り(アリほどの)も静まってきた。

「ところで,今更お前が…俺に何の用なんだよ。」
「よくぞ聞いてくれました。」

ぱちりと手を合わせてそう言い放った私の表情を見て,またもや彼が怪訝そうに眉根を寄せる。醜くてごめんなさいね。えっとですねー…前置きにその言葉を置き,黄瀬君に告ったところから酷い言葉を浴びせかけられたところを省いて説明をしたところ,苦笑を浮かべられた。

「で…俺にダイエットメニューを作ってくれ,と?」
「その通りです。」
「…なんで俺なんだよ。」
「昔はよく一緒に登下校を共にしたり遊んだりしたじゃないですか。」
「む,昔の話だろ!」

頼むからその話はよしてくれとでも言うように顔を上気させて赤くなる彼の肩をとんとんと叩きそっと耳元に口を持っていき出来るだけ色っぽく呟く。

「昔女の子に虐められてるところを助けてあげたのはどこの誰ですかー?」
「ひっ…。」

喉を鳴らし青ざめたように私から離れた先輩が観念してくれと頭を項垂れわかったよと叫ぶ。渋々といった形で携帯を取り出し文字を打ち込んでいく彼の指を静かに見つめながらどんなメニューを考えてくれるのかと少しばかり緊張してきた。打ち終えたのか携帯を閉じてため息をついた彼に「終わりました?」と声をかけるとびくりと彼の肩が揺れる。

「お,俺そんなメニュー作りとか詳しくねーから…その,友人ってほどじゃないかもだが…知人に頼んどいたから。」
「ほんとですか!有難うございます。」

合わせた両手を口元に持ってきてにこりと笑った。男を魅了するポーズの一つなのだと雑誌に書いてあるのを見たからやってみたのだが…何故だか彼の目は笑っておらず据わっている。なんだよ,ハッタリだったのかよ。




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