「名前ちゃん,調子はどう?」
「きつくなってきました。」
「そう,楽しいのねー。」
「いえ全然。」
「それならちょっと…メニュー追加でもしましょうか。」
「…。」

マジバーガーの1席で,私とリコさんは向かい合って座りながらA4サイズの紙を広げてミニ作戦会議なるものをしていた。その紙には毎度毎度見飽きて見飽きて,もう見過ぎて内容を丸暗記している(多分)私のダイエット作戦メニューが書かれておりまして。リコさんはその紙の上に楽しそうに新たなるメニューを書き加えている。正直,逃げ出したい。

リコさんにばれないよう小さなため息を一つつき机の上に項垂れ手を前方へ伸ばしたとき,ヒヤリとした感覚が指先に伝わってきた。彼女の頼んでいた飲み物だろうか。顔をあげたと同時に「私のストロベリーシェイク,勝手に飲まないでね。」というとげとげしいリコさんの声が降ってきた。ストロベリー。ストロベリー?何を考えているんですかリコさん。シェイクと言ったらやっぱりバニラじゃないですか。それはまあ,定番のバニラを飲み飽きてたまには変わった味を楽しみたいという気持ちもわかりますが。

やっぱり,バニラでしょう。

と思いつつも口に出せない私は小心者なのか,はたまた上下関係たるものを理解しているからなのか。…いや,しょうもなさすぎて言葉にすることが馬鹿らしいということにしておくか。

そこで私は右手に見られる自分の頼んだ飲み物を見つめる。白がかかった透明な蓋に透けて見えるのは茶色。茶色から連想させられる美味しいドリンクはコーラだが…これがコーラならどれだけ良いものか。

「なんでいつも烏龍茶…。」
「何か言った?」
「何も。」

勇気を出して言葉にしてみたものの,あっさりと返されてしまった。仕方がない,我慢しよう。いつもの私であれば「何でもしますから,お願い。」と言ってまで甘いドリンクを頼みたがるだろうが,高尾君の一件以来自分がダイエットをしているということに,多くの人を振り回してしまっているということに理解を深めたためか簡単に引き下がることができた。

と,ここで始終机の上に置かれる紙に視線を向けていたリコさんの頭が上がる。

「名前ちゃん,バスケしてみない?」
「バスケ?」

これはまた,なんでバスケ?とは思ったものの彼女はバスケットボール部の監督さんだったんだ。ダイエット,運動,バスケと結びつけるのも無理もない。

「やったことはありますが…体育の授業でぐらいしか…。」
「大丈夫大丈夫!丁度来週の日曜日バスケ部の練習も休みだからさー,ストバス,一緒にしてみようよ!うちからも誰か連れてくし!痩せるよー。」

ストバスか…聞いたことはあるがやったことはない。私には疎遠なものと思っていたが,うん。やってみる価値はあるかな。

「ほんとに痩せるんですよね…?」
「大丈夫,私に任せて!」

いや,(練習量半端じゃなさそうだし,てかきつそうだし)正直リコさんには頼みたくないんだけどな。けれどもこれも,太り続ける人生よりダイエットという道を選んだ私の宿命か。頑張るしかないだろう。…無理ですと言ったとしてもリコさんのことだ,強引にでも連れて行かれるに決まってる。

「わかりました。来週の…日曜日でいいんですよね。」
「うん,時間とか決まったらまたメールするから!」

はい,そう頷いて飲み物(リコさんの)に手を伸ばす。その伸ばした右手はストロベリーシェイクが入った容器に触れることもなく,彼女によって容赦なしに叩き落とされた。




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