「どうも黒子君。」
「どうも…。」

この前電話で喋ったばかりではあったが会ったのは久しぶりである。ちっ。そんな舌打ちが聞こえた気がしたが聞こえないふりをした。彼の様子は明らかに不機嫌といった感じで,その横にいる背が高い男と小ぶりな男がどうしたんだというようにおろおろと戸惑っていると見える。彼らはまさか,黒子君の腹黒さを知らないのか。

「こんにちは,黒子君の友達です。」
「昔の知り合いです。」
「現在進行形で友達です。」
「…お,おう。」

赤髪の大男がどもり気味に返答し,小ぶり男はまだおろおろと私と黒子君とを交互に見ていた。

「こんなところではなんですし,マジバにでも。」
「結構です。僕たち今急いでるんで。」
「嫌だな黒子君。遠慮しなくたっていいじゃない。」
「遠慮じゃないです。避けてるんです。」
「く…黒子ー…!」

小ぶり男が私と黒子君の仲を引き離すように割って入ってきた。因みに彼の名前は降旗,赤髪が火神というらしい。ていうか,彼の話を聞くからに全然急いでいる様子ではない。ちょっとぐらい話を聞いてくれてもいいじゃないか,けち。

「それじゃあ,お前その…苗字さんと一緒にマジバにでも行って話してこいよ。」
「そうだよ,折角会ったんだから。語ろうよ黒子君。」

気のきいたことを言うじゃないかと関心する一方そうだそうだと彼に続き黒子君をお茶に誘う。て言っても私はマジバに言っても烏龍茶くらいしか頼めないのだが。

「…。」

すると黒子君は肯定も否定もせず押し黙ってしまった。…どういう事なのか意味がはかり取れず私もただ黙っていると,見損ねたのか火神君が「俺らはもう行くからな。」と言って降旗君と共にこの場を離れていく。降旗君が遠慮がちに頭を下げて去っていく姿を数秒見つめ,黒子君に視線を移した。

「…黒子君,じゃあ行こっか。」

それじゃあと言い一言も喋らない彼の右手を掴むとぱしりと払いのけられる。どうしたものかと彼の顔を覗き込むとやっと彼が言葉を発した。

「気安く触らないでくださいデブ。」
「な…。」

んだと,そう言い返そうとしたつもりが彼の言い返す暇さえ与えないマシンガンのような言葉がずけずけと私に突き刺さる。言い返す気力さえも失われた。

「ダイエット?笑わせないでください。無理に決まっているでしょう。貴方が痩せることができたなら僕だって2メートル超え狙えますよ腹立たしい。しかもなんですかそのだらしない腹3年前より随分と膨らんでるじゃないですかほんとにダイエットしてるんですか?これだからデブやブスと言っていろんな人に蔑まれるんでしょう。このデブスが。それと貸した本ほんとに返してください。」

唖然とする私を見てむっとしたように黒子君が「なんですか。」と呟く。

「いや,懐かしいなあと思って。」
「はあ?」

意味がわかない,眉根を寄せて肩をすくめ,珍生物を発見したような目つきで私のことを見つめる黒子君に苦笑を零す。

「だって,懐かしいじゃん。3年前はこうして黒子君に毎日のごとく罵られてさー。」
「…変な人。」
「ん?」
「変な人って言ってるんです。」

むっとしたかと思えば蔑んで,今度は呆れたようにそう吐き出した黒子君に首をかしげると頭を抱えられてしまった。そこまでしなくてもいいじゃない。

「どうせギブアップするんでしょう。」
「し,しないってば!」

早い足取りで私の前を歩き出す彼に待ってと一言かけるが待ってくれることはないだろう。そんなことはとうにわかっていることなのだが。

「ねーどこ行くのー?」
「マジバです。烏龍茶以外頼んだら絞めますよ。」
「こ,怖!」

黒子君が言うと冗談に聞こえないから怖い。もしかしたら本気なのかもしれないけど。すたすたと前を歩いていた黒子君にやっと追いつき隣に並んだところで彼が立ち止まった。

「…頑張ってください,苗字さん。」
「うん。」

…あ,今名前呼んでくれた。




back prevnext
- ナノ -