「おい,そいつかっこいいのか?」
「そうなんじゃないかな。」
「どんな奴?」
「んー…でこっぱち。」
「…悪い予感がする。」
「幸男兄の悪い予感って当たったためしがないから信じないよ,私は。」
「俺は信じとく。」
「そうしなさい。」

時刻は2時16分,待ち合わせの時間は2時半だけども私も兄も緊張しているせいか30分も早く待ち合わせ場所の喫茶店についてしまった。コップの中に入った氷が溶けてカラリと音をたてる。あと14分,もしかしたらもうすぐ来るかもしれない。

横には当然の如く幸男兄が座っていて,服装もいつもよりどこかお洒落だ。いつもはサンダルかスニーカーのくせに,いっちょ前にブーツなんて履いてやがる。

「…なあ。」
「何?」
「その彼氏さんはまだなのか。」
「まだ彼氏じゃない,ていうか彼氏にしたつもりも,するつもりもないよ。」

よく見れば兄の目の下に隈ができているじゃないか。どこまで緊張したら気が済むんだ幸男兄。彼,高尾君に兄弟だとばれずに上手くやり過ごすことができるか,頼んでおきながら心配になってきた。溜息をついたと同時に入口から鈴の音が聞こえた。…来たか。ごくりと固唾を飲み込み,「ビシッとしろ,ビシッと」と言いながら兄の背中を叩くと「わかってるよ」と私も叩かれてしまった。私だってわかってるよ。

予想通り,入口付近できょろきょろしながら私たちを探しているであろう彼は高尾和成君で間違いない。席からこっちこっち,と手を振るほど私たちの仲は深くないし,取り敢えず彼が私たちに気付くのを待とうとコップに入ったカルピスソーダをストローでずずっとすすった。

「お前,それ彼氏さんの前ですんなよ?下品だ。」
「するわけないじゃん。もっと優雅に飲むよ。てか,彼氏じゃないって。」

いちいちしつこい兄に毒づいて,高尾君に視線をうつすとこちらに気付いたのか手を振ってきた。手を振ったほうがいいのか,取り敢えず一礼して彼がこちらの席に来るのを待つ。

「…あ?」

と,幸男兄が呆けたようにそう呟いた。どうしたの,と聞いても返事は返ってこない。兄の視線の先を追ってみると,高尾君がいて。兄は目をこすりながらもう一度高尾君を見て「嘘だろ?」と呟いた。

不思議に思い兄を見つめていると,顔に苦笑を浮かべながら,

「ほら,悪い予感的中…。」

そう吐き捨てるように呟いた。