「なんで接点のないその男がお前のことなんて好きになるんだよ。」
「ごめん,それは私が聞きたいの。」

一通り話し終えると兄は納得したように首を縦に動かした。「どうりで苛々してたわけだ」そう呟いた兄に「どうりで俺の阿呆面を見て苛々してたわけだの方があってる」と告げるとグーで殴られてしまった。暴力反対と言ってみたもののそれは私にも返ってくる言葉。白々しい目で私のことを見つめる兄のその視線に耐えられず,渋々ごめんと呟いた。

「それで,なんで俺に相談してきたわけ?」
「彼氏役をお願いしたいのですが快く承諾してくれたら嬉しいな幸男お兄様。」

どうせ面倒くせえの一言であしらわれると思っていたが以外にも「いいけど」との返事が返ってきた。どうしてまた,私だったらそんなこと頼まれたら絶対面倒くさい勝手に付き合っとけって断固拒否するのに。今の状況下そんなことは言えないけど。

「名前のことを好きになったそいつの顔見てみたいしな。」
「そういう事か。」

兄の返答に少し苛つきはしたが,ここは頼まれてくれた兄に感謝すべき場面で殴ったりすればきっとこの契約も解消されるだろう。無理やり顔に笑顔を貼り付けて有難うと告げると,うわぶっさとあしらわれたので殴っておいた。どんな道に進もうがどっちみち私の兄は殴られる運命なんだ。

「調子乗りやがって,どうせ俺に頼んだのも男子と話すのが恥ずかしいとかそういう理由だろチキンめ。」
「お前,チキンという単語が使える立場じゃないでしょ。」
「うるせー,今日だってな,食堂で2人の女と話したわ!」
「どうせ,ここの席いいですか?あ,いいですよ。ぐらいの台詞だろ,威張んな糞兄貴。」
「あ,もう彼氏役やめてやろっかなあ。」
「ごめんなさいお願いします幸男お兄様。」