彼に告白された日の午後8時頃の話し。「ただいま」という疲れきったような間抜けな兄の声が聞こえてきて,玄関まで走って出迎えると「おう,名前」と靴を脱ぎながら阿呆らしく笑った。なんだかその仕草にむかついて,しゃがんでいる彼の背中を思いっきり蹴り飛ばすと,いつもは丁寧に靴を揃えて上がってくるはずの兄が靴を脱ぎ散らかし,怒って私を追いかけてきたため一応この行動にいたるまでの私の心情を兄に話そうと思う。

「された。」
「動詞だけじゃ何をどうされたのかわかんねーよ。」
「…言われた。」
「何を?」
「宣言された。」
「だから何を?」
「…告白。」
「へー。」

あれ,反応が薄い,そう思った私は大袈裟に両手を使いながら「告白されたんだよ,告白。なんで驚かないの?」と言うと,俺の後輩にいちいち告白自慢されてたからそういう話には慣れてしまったとかなんとか。ああ,聞いたことあるぞその後輩。黄瀬涼太だろ,それ。けれども私は兄にこういった恋愛面の話を持ちかけるのは初めてだし,告白相談なんて一度たりともしたことがない,てかその前に私も告白された回数自体少ないんだけど。

「ぶっ。」
「汚い。」

急にホットココアを飲んでいた兄が,コップに口をつけた途端吹き出した。兄の口から飛び出したココアが机の上に飛び散る。汚いなおい。何やってんだと兄の背中を叩いてから洗面所にタオルを取りに行った。リビングに戻ってくるとばっちりと兄と目が合ってしまい離そうにも離せない。吃驚したように口をパクパクと動かしながら兄が呟いた。

「名前…が,告白?」

信じられないというような表情を浮かべながら私を見る兄のもとまで走っていき,飛び蹴りをかましてやるとまたもや怒って追いかけてきた。まず落ち着いて話し合おうよ幸男兄。