一週間前の放課後に,私はある男に呼び出しをくらった。最初に言ってしまえば,それは俗に言う告白というものだったのだが。告白経験が今日の今日まで1,2回程。しかも小学校,中学校時代しか告られたことがない私にとって,その呼び出しはリンチか,カツアゲかを連想させるばかりで,朝に放課後体育館裏にと告げられてからは放課後何が起こるのか考えただけでも怖くて,始終肩をびくつかせて過ごしていたんだ。

「好きです付き合ってください!」
「え…。」

目の前で呼び出しをした張本人が大きく深呼吸をしたのを見て,駄目だ,殴る前に呼吸を整えているんだ私死んだと思い込みきゅっと目をつむった。しかし,いつになっても痛みがやってこない。これは遅れてくるパターンか,とは思ったが触れた感触さえなかったわけだし。

少し目を開いて見てみると好きです,の言葉が彼の口から発せられた。そうか,もしかしてそうやって油断させてからの,グーパンか。少し身構える素振りはしてみたものの…。

あれ,違うよなこれ。リンチとかカツアゲってジャンルじゃないよなこれ。私は別に,「付き合って」と言われて「え,何処に?」なんていうアニメやラノベによくあるような天然鈍感女じゃないんだ。いたって普通の女子高校生だ。

どんな言葉を選んでこたえるべきか告白ってやつに慣れていない私はしどろもどろになりながら彼を見つめることしかできない。取り敢えず,無言は駄目だ。無言で通そうにも目の前の名前も知らない彼はうずうずと忙しなく目を瞬かせながら返事はまだかと待っているもよう。ここはあの,突破口を使うしかないのか。

私は両手を握り締めて,上半身をぐっと45度程下げた。

「あと一週間,待ってください!」

ここまでが丁度一週間前の話し。そして,一週間後である今日。告白されてから3日目,友人に相談してみたところ彼の名前は高尾和成というらしい。彼のことを狙っている女子も結構いるとかなんとか。何故そんな人が私を,なんの接点もない私を好きになってしまったかは知らないがそれはまあいいとして。告白されてから6日後,つまり昨日わざわざ彼のクラスにまで出向いて「明日駅前の喫茶店で待ってます」とだけ伝えた。準備はばっちり。

駅前の喫茶店の一席で彼を待つ。隣には私の兄である笠松幸男。

「その彼氏さんはまだなのか。」
「まだ彼氏じゃない,ていうか彼氏にしたつもりも,するつもりもないよ。」

横で緊張気味にそわそわとする兄を見て溜息をつき深呼吸をする。入口から鈴の音が聞こえたと同時に私も顔を強ばらせた。貧乏ゆすりをする兄の足を叩きもう一度,今度は深く深呼吸をして,彼の姿を待った。