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◎誰も報われない気がする 酷な話

緑間先輩のことが好きだ。昔から好きだ。どうしようもないくらいに大好きだ。告白?告白だなんて,そんな勇気あるはずないだろう。いつもいつも陰ながら彼のことを見つめる毎日で,先輩と一緒にいられる時間がもっと長くなるようにって思ってバスケットボール部のマネージャー志望までしたが,マネージャーになったはいいものの,バスケ部員である高尾君や緑間先輩のファンの陰湿ないじめに負けてしまい敢え無くバスケ部を退部する羽目になってしまった。私の先輩への愛はこんなところで挫けてしまったのか,と強く後悔をしたものの,日々行われる教科書の落書きや私物の窃盗呼び出し,下駄箱の中に画鋲の山,バスケ部の退部届けや誹謗中傷が書かれた手紙の数々。

耐えられるわけがなかった。

バスケ部でマネージャーをさせてもらっていたのはたった数ヶ月で,緑間先輩とまともな話をしたのも両手で数え切れるほどだった。マネージャーを辞めた途端ぴたりと止んだ陰湿ないじめ。もう下手に手出しが出来ないと悟った私は,マネージャー入部前は日課であった体育館に練習を見に行くという誰でもするような行為さえ怖くなった。

先輩とどうやったら話せるか,先輩にどうやったらもっと近付けるか。どんなに頭を使って考えたって,これだとしっくりくるようないい方法なんて考えつかなかった。勿論,諦めるなんて選択は私の中にはない。

「好きです,付き合ってください。」

この声は,私のものじゃない。この言葉,この台詞,私がどれだけ言いたかった言葉だろう。どれだけ先輩に向かい伝えたかった気持ちだろう。私はそう言い放った彼の前で呆然と立ち尽くし,どう返事をしようか迷った。

…高尾和成先輩。バスケ部のレギュラー,緑間先輩の,友人。周りを見渡したが彼の親衛隊なる私の敵,彼女らの姿は見つからなかった。

そして私の頭の中で,「どうやって断ろうか」と考えていた思考をぴたりと止めて,「彼を利用して,どうやって先輩に近付こうか」という思考が動き出した。

「私も,先輩のこと好きでした。」

にこりと形だけの笑みを浮かべて笑ってみせる。目の前にいる高尾先輩も私のことを見つめながら嬉しそうに,何処か恥ずかしそうに笑った。

ねえ,緑間先輩。待っていて。これからどうするかなんて簡単な話…ではないかもしれないけど。高尾先輩を通じて先輩に近づいてみせるから。私なら,私のこの貴方に注ぐ愛があればこんなことなんてことないから。嬉しそうに喜んでいる高尾先輩を見ながら私も喜んだ。だって,高尾先輩のお陰で私の恋は叶うかもしれないんだから。

…悪女?そう言われてもしょうがないっていうことは随分前に承知している。だって全ては。

先輩のためなんだもの。

2013.01.23
( ◎貴方のためなら krk/緑間真太郎 )
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