fiction | ナノ
彼女と目が合うのは気のせいではない。自意識過剰,とかでもない。ただ,俺が彼女のことを見ていて,彼女も俺のことを見ているから目が合うんだ。もし目が合った場合,普通の人であれば会釈か何らかのフォローを入れるはずだが,俺たちはそんなこと一切しなかった。ただ見つめ合うだけ。

俺も最初の内は会釈をしていたが,彼女からの会釈は返ってこなくて本当に俺のことを見ているのかと恥ずかしく不安に思ったものの,彼女は俺のことを見ている。俺と目があっている,と,今は確信を持ってそう断言できた。

彼女の名前は苗字名前,俺と同じクラスだ。席は俺の,右隣の隣の隣。

「よう,降旗。お前また苗字さんのこと見てたろー。」

休憩時間に入り福田がそう話しかけてきた。俺は否定をせず,「うん」と一言言って笑うと,福田の隣にいた河原が驚いたように声を荒げて「フリが男前だ…!」と言った。…言ったというより叫んだ,のほうがあってるかもしれないが。

∞ ∞ ∞

また目があった。4時限目の数学。基本問題を解き終わりつまらなく思ってつい首が動いてしまう。その先には彼女。視線を感じたのか,シャープペンシルを握りしめてノートに向けていた顔を起き上がらせる彼女。その端正な顔立ちは,ずっと見ていても飽きそうにない。吸い込まれそうな瞳に,危うく吸い込まれて意識が飛びそうになっていたところで頭に軽く衝撃が走った。

「あー…降旗。お前が誰を好きになり,誰を見つめていようが文句は言わんが…せめて授業中はちゃんと聞くように。」

丸めた教科書を握りしめた数学教師が呆れたようにそう言い放ち,俺は苦笑を浮かべながらすみませんと謝った。彼女がどんな反応をしているのか気になって,視線を隣にずらして見てみる。…彼女の唇が微かに,微かにだが緩んでいた。…気がする。

∞ ∞ ∞

「つーかーれーたー。」

部活が終わった途端,小金井先輩がそう叫んだが,大きすぎる声量からは疲れた様子など微塵も感じなかった。部室に戻り素早く帰る準備をして誰よりも早く部室を出た。伊月先輩に「なんか用事があるのか?」と聞かれたがそんなわけではなくただ気分的に,って言ったら嘘になるが,「はい,そんなところです」と言って部室を飛び出した。部室に向かう廊下の窓から苗字さんが帰るのが見えたからなんて,言えるわけがない。

校門前できょろきょろと苗字さんを探しているとあっさりと彼女の後ろ姿が見つかった。さり気なく,さり気なく。丁度俺も帰る道がこっち方向なんだ。そう自分に暗示をかけて彼女の10メートル程後ろでなるべく足音を立てないように歩いていると,不意に彼女が振り返った。

目が合う。

少しの恥ずかしさと嬉しさが混ざり合いなんとも言えない気分で,彼女の瞳を見つめていると,不意に彼女から笑みが溢れた。…え,見間違いか?しかし何処をどう見ても,彼女は笑っている。つられて俺も笑い返すと,彼女が大きく肩を揺らし右手を口横に持ってきて。

「一緒に帰ろうよー!」

叫んだ。

熱くなる体をごまかそうと,俺は元気よく頷いて彼女のもとまで走って行った。

2013.01.23
( ◎目線でイく krk/降旗光樹 )
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