fiction | ナノ
◎腹黒い黒子君

ぐにゃり,と目に映る全てのものがイビツに歪む。胸の中で填めくこの気持ちは何か分からずただぐらぐらと揺れる頭の中をかき混ぜ乱して何が起こったのか理解しようとする私の手を,誰かが止めた。

「大丈夫ですよ。苗字さん。」
「黒子君?」

歪んでいた彼の顔が形を取り戻し本来の「黒子君」の姿へと戻っていった。彼に触れたとき感じた安心感を私は未だに忘れられず,持ちつ持たれつ…私が一方的に助けられているが,彼とはそんな友達以上恋人未満の関係を一年近く続けていた。

そんなある日。

「んっ…。」

今日は部活動停止のため,彼と一緒に帰ろうと教室から飛び出した私は始めに図書室へとやってきた。いつものことなら彼は絶対ここにいるはずだと確信して。予想通り本棚から見え隠れする水色の頭は黒子君のものだった。が,知らない女の声も一緒にきこえてきた。何が起こっているの。不安で埋もれていく胸の内を抑えるように,大丈夫大丈夫と自分で言い聞かせ,それでも好奇心には勝てない私はゆっくりと黒子君がいるはずのそこへと歩みを進めていった。

信じられない。私の心情はただその一言で尽きた。本棚から隠れ見る黒子君と,知らない女が顔を重ね唇を重ね,何度も何度も角度を変えて求めるように口づけ合う姿を見て衝撃を受け,吐き気がした。盗み見たことに対しての罪悪感は生まれない。小さく息をしているだけじゃ,足りない。目に入った緑色の背表紙の本がぐにゃりと曲がった。ばれないように,大きく息を吸い込むが,まだ足りない。空気が足りない。次第に苦しくなり視界に映る背景も何処なのかわからなくなった。苦しい,息ができない。

倒れる私の手を,誰かがとった気がした。「大丈夫ですよ」頭の上で聞こえた声に黒子君だと体中が騒めきたつ。彼が触れたおかげで少し元に戻った視界。彼の顔を捉えて見つめると,イビツに笑う彼の顔があった。思考がかき乱されまたもや激しい目眩と息苦しさが私を襲う。…彼が,優しさのない笑顔を見せたのはきっとイビツな視界のせい。彼は優しく笑っていたんだ。そこまで考えたところで私の意識はなくなった。

∞ ∞ ∞

この光景,見覚えがある。あの時とは違う女性と唇を重ね合う黒子君の姿にうんざりとした。しかし体は正直で,苦しくなる胸に手を当て空気を求めるがしばらくして息をすること自体がつらくなってくる。ヒュー,ヒュー。私の喉がなり,小走り気味にこちらに近付いてくる足音が聞こえた。

「大丈夫ですよ。」

黒子君の声がする。顔だけを彼に移し,イビツな視界をかき分けて彼の顔を見つめる。どこか楽しそうに笑う黒子君を見て,精一杯の力を振り絞り彼を睨んだ。

「…何が,大丈夫よ…。」

そう言った私に驚いたように肩を揺らした黒子君は,間もなくつまらなさそうに乾いた瞳をこちらに向けてきて小さく,舌打ちをした。

2013.02.02
( ◎過呼吸ワルツと確信犯 krk/黒子テツヤ )
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