fiction | ナノ
「赤司君,君はいつも私を見ていない。」

苗字がはき出したその言葉に俺はただ首を傾げることしかできなかった。

「俺は,お前のことを見ているつもりだが。」
「つもり,って言ってるじゃん自分でも。つもりになってて,見ていないんだって。」

細く折れそうな彼女の指が前髪を掻き分ける。つい見入ってしまい我に返り彼女の話にまた耳を傾ける。…俺は,彼女のことを見ていなかったのか。首を捻りうねる俺を見て彼女が寂しそうに笑った。

「赤司君は有難うって言葉を言ってくれない。」
「言ってる,つもりだ…が…。」
「ほら,またつもりって言った。」

赤司君は正直だね,彼女が小さく笑い俺は口をつぐんだ。零してしまった言葉は今更取り戻せない。彼女の口は止まることなく開く。

「赤司君はよく嘘をつく。」
「…それは。」
「あと,よく私のことを見て溜息をつく。」
「…悪い。」
「それとね,よく辛いの我慢してる。」
「…。」
「私を頼ってくれない。」
「…。」
「私の名前,そんなに呼ばないよね。」
「…。」
「私赤司君のこと好きなのに。」
「…。」
「もっと頼って欲しいし喋りたいし名前も呼ばれたいし…」
「…え?」
「黙って,今話してる最中。」
「…悪い…。」
「だからさ,私が一番言いたいのは,もっと私を見て,ってこと。」
「…苗字,おい…!」
「じゃあね,また明日。」
「…あ…。」

そそくさと走って行く彼女の後ろ姿を見つめながら頭をおさえた。…今は,きっちり頭を整理する時間がほしい。それで,考え終わったら明日朝一番に苗字のところに行って,名前を呼んであげて,悩み事を…少しだけ話して,彼女の視線を真っ直ぐ,見てあげよう。

それで…僕の気持ちも吐き出すんだ。

2013.01.29
( ◎吐露に任せてバイビー krk/赤司征十郎 )
― thanks あせんそーる/題名
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