fiction | ナノ
「黄瀬君,ピンク好きなんだー?」
「…え,ああ。まあね。結構好きっス。」
「やっぱ黄瀬君は何着ても似合うー!」

隣の席から聞こえてくる,黄瀬君と彼のことが大好きな女子生徒の明るくうるさい声に,正直耳を塞ぎたくなった。早く向こう行ってくれないかな,なんて思いながら黄瀬君と隣の席になってしまった自分を恨む。休憩時間毎にうるさくてさっき授業で出たばかりの課題も手につかないほどだった。

「あ,俺ちょっとトイレ行くね。」
「わかったー行ってら。」

ようやく静かになった隣の席を見つめ一息ついたとき,先程まで黄瀬君と喋っていた女の子たちが「次の時間和英辞書いるみたい」なんて話をしだした。折角スムーズに進めることができていたというのに,私は手を止めて椅子から立ち上がり教室を飛び出した。…和英辞書持ってそうな人…そうだ,黒子君に借りよう。

休憩時間も残りわずかなため廊下に集まる人ごみを上手く避けて駆け抜ける。階段に差し掛かったところで踊り場に眩しいピンクが見えた。目が,くらくらする。

「…あ。」
「え…。」

途端,足を踏み外し宙に浮く。滞空時間があまりにも長く感じ,あれ,落ちない…と思った瞬間最速度で下へと真っ逆さま。咄嗟に目をつむり痛みを待つが,いつになっても訪れてこない痛みに目を開けるとさっきまで見つめていたはずのショッキングピンクが目の前に広がっている。眩しすぎてくらくらするその色に顔を埋めほっと安堵の溜息をつき,はっとして上を見上げれば口をぽかりと開け呆然としている黄瀬君の顔があった。

「…あ,えっと,その…ごめん…ほんとごめん!」

慌てて彼を押しのけて立ち上がり彼の安否を伺う。「ごめん重かったよね」ごめん,何度も頭を下げて謝る私にようやく彼が言葉を発した。

「…か,るかった…。」
「…え?」
「苗字,さん…めっちゃ軽かった…。」
「…え,はあ?」
「あと,なんか天使が舞い降りてきたみたいな…あー…!上手く伝えれないっスけど…なんかほんと,綺麗…だった…。」
「…。」

…え?言葉につまる私の両手を取りふわりと笑った彼になんて返答を返そうか迷いながらもなんだか火照る体。ふわりと…笑う彼。

目に焼き付いたショッキングピンクは離れそうにない。

2013.01.29
( ◎ショッキング・ピンクに墜落 krk/黄瀬涼太 )
― thanks ストロベリー夫人はご機嫌ななめ/題名
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