fiction | ナノ
「15分間だけ…。」

掠れる声でそうはき出した私の背中を,黄瀬君が優しくさする。嗚咽をあげて泣く私の耳に「大丈夫,大丈夫っスよ」という彼の甘く優しい声が響いた。最初から最後まで彼にすがってしまった,そんな自分に嫌悪感を抱くもののついつい彼に甘えてしまう自分がいる。

さっき,ついさっきのこと。私はふられてしまった。ずっと前から好きだったあの人に想いを伝えたが,好みではないとバッサリ切り捨てられてしまった。私がかれに告白できるようにと頑張ってくれた黄瀬君に申し訳ない気持ちでいっぱいになって,反面,どこかすっきりしている自分がいた。

「15分だけっスよ?」

優しく笑いながら私のことを抱きしめる黄瀬君。15分,という偽りの恋人時間に身を委ねながら彼のさらさらな髪の毛に指を絡めた。

「黄瀬君,私ふられてよかったのかも。」
「…なんで?」
「わかんない。でも,すっきりした自分がいるの。」

不思議でしょ?目頭に涙が溜まって,鼻も真っ赤であろうそんな顔で無理やりながら笑顔を作り彼に向けると頭を撫でられた。

「あーあー,このまま名前っち俺のもんになっちゃえばいいのにー。」
「えー,何それ。」

黄瀬君が笑った。

「そういう冗談,軽々しく言ってたら誰も本気にしちゃうからやめたほうがいいよ?」
「…冗談じゃない,って言ったら?」
「…へ?」

どういうこと,そう続けたかったが黄瀬君の「あっ」という声によって口をつぐんでしまう。

「もう15分経ったっスよ。」
「…計ってたの?」

腕時計を見ながらそう言った彼に計っていたのかと吃驚し,「ごめん,ありがと」と言い彼の腕から離れようとした私の腕を黄瀬君が掴んだ。

「黄瀬君?」
「…あと2分。」

あと2分付け足し,ね。そう言って彼が笑った。抵抗なんてする気にもなれず彼に体を預けるとそのままさっきよりも強く,強く腕を回され抱きつかれる。ねえ黄瀬君。

私,本気にしちゃうよ?

2013.01.28
( ◎17分間恋人日記 krk/黄瀬涼太 )
― thanks ストロベリー夫人はご機嫌ななめ/題名
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