fiction | ナノ
「よろしくお願いします。」
「…よろしく。」

頭を下げた彼を見つめて私は社長の言葉を思い出した。…期待の新入り…か。今日から私が所属するモデル事務所に入った彼,黄瀬涼太君は最近人気が出てきた新人モデルで,前所属していた事務所でいろいろといざこざがあったらしく,なんやかんやで私の事務所が引き取ることになったらしい。今日は仕事のため事務所まで出向いたが,来た早々私の前にやってきた彼は深々と頭を下げ上記の言葉を放った。

…敬語,使うべきだったのかな。しかし彼より私の方が一つ…だけ年上らしいし,彼よりも私の方がこっちの世界での業界歴が長いわけだし。一応ぺこりと頭を下げて彼の前から通り過ぎた時,何やら視線を感じた。まあ,黄瀬君が私のこと見ているのかなぐらいに考えて気にせず休憩室の椅子に腰をかけたとき。

「…ふー…。…ん,え?」
「どもっス。」

流れに流されてどうも…と言いかけたが言葉を飲み込み黄瀬君の顔を見つめる。ど,どうして私の隣に腰をかけたんですか…?

「え…どうして…その。」
「ん,何スか?」
「いえ,なんでも…。」

何も言えずに縮こまる私,無理もない,こんな大男相手に勝てる未来なんて見えないわけだし。暫くの沈黙が続く。居心地があまりにも悪く,席を立とうとしたところで彼がタイミング悪く口を開いた。

「俺,あんたのこと探してたんスよ。」
「…え?」

あんた…?年上をあんた呼ばわりする彼に内心いらついたものの,また口を開きだした彼が紡ぐ言葉の続きに耳を傾ける。

「結構前,コンビニで雑誌広げてたんスよね。…それ,すっげーマイナーもんみたいで,載ってる子とか誰一人知らない子ばっかりで…ポーズとかもめちゃくちゃだし,カメラ目線下手だし,可愛い子もいたのに勿体無いなーって思いながら次のページ捲ったんですけど。…まあどうせ同じような子ばっかりだろう,って期待もせずに。…そしたら,眩しいくらいの笑顔で笑う女の子を見つけたんス。」

彼の言葉に,黙って耳を傾ける。

「ポーズなんか大袈裟で,でもどこかありのままの自分を出している…自然体っていうか,とにかく目を奪われちゃったわけなんス。俺は必死になって他の雑誌に彼女が載っていないかって調べたんスけど全然見つかんなくて…もう一度一番目に見た雑誌を見返したら右端に小さな字で苗字名前って…書いてあって…。」

彼,黄瀬君と目が合う。彼の息が私の鼻をかすりくすぐったい。

「探すまで1年,かかっちゃったけど…。」

彼の右手が私の頬に触れる。

「…やっと,見つけた。」

無邪気に笑う彼を見ながら私の胸はどきりと高鳴った。私を見てくれる人は…いてくれたんだ。

2013.01.29
( ◎やっと見つけた krk/黄瀬涼太 )
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