fiction | ナノ
◎長い会話文 ほとんど主人公の台詞で成り立っている文章

「例えば,今ここに水の入った器があるとするよ?あー,いや。大きさとかは関係なしに。それを零さないように机にまで持っていかなくてはならない。いや,机の場所とかも関係なくて,遠くても近くても机に持っていかなきゃいけないの。まあ続けるけど,その時に,その器に入った水を零したく…ならない?いや,君がならなくても私はなるの。あくまでも零してはいけない,って自分では思っているのに,頭のどこかで零したらどうなる,零してみたい,っていう変な考えをしてしまうの。違う例えをするなら,真っ白いキャンパスに何週間もかけて描き続けた綺麗な絵の上からばあーっと,黒い絵の具でぐちゃぐちゃにやりたい…みたいな。だからあくまで例えだから。まあ,この二つの例えと似てるわけ。私がいましようとしている,言おうとしている行動は。…わからない?じゃあもっと,簡単に言うとすれば,ずっと前から欲しくて欲しくて毎晩その欲しいものを考えたらいろいろ考えてしまって眠れないほど…まあそんな欲しいものがあるとするよ。けれど,どんなに手を伸ばしたところで届くはずのないそれに,半ば諦めてしまっていた。それを欲しがる人は何人も何十人も何百人も何千人も…。…分ければいいじゃないかって?あーごめん,私の説明不足だった。それは,この世で一つしかないと考えておいて。…続けるよ?まあ,それは誰もが欲しがるこの世にたった一つしかない存在だった,そんなものを欲しがっていたの。そしてある日,ひょんなことから転機が訪れてその存在を手に入れることができた,としたら。…その転機のことは割合するから,もうお願い,ちょっとの間黙ってきいてくれないかな。…それでね,念願の存在にたどり着けて,嬉しさと喜びと,いろんなプラス的感情が入り混じって発狂しそうな気分,上手く説明できなくてごめんだけど,まあ自慢だってしたくなるよね。誰かに自慢したか,っていう話はおいといて,ある日,ある日ね。喜び疲れたの。詰まるところ,飽きちゃったの。その存在に。飽きちゃったくせに,手放しちゃいけない,この存在を手放すことは絶対にいけないって思ってて,けれど頭のどこかでは手放してしまえ,離れてしまえって思ってる。…わかった?あー…そっかごめん。じゃあほんと,とても簡潔に伝えるからよく聞いといて?…欲しかったものを手に入れたはいいけど飽きてしまい,飽きたくせに手放してはいけないと勝手ながら思っている。しかし,頭のどこかでは離れてしまえって考えてて…あーもう説明面倒くさいわ。ごめん,前置き長くなってほんとごめんね,黄瀬君,別れよう?私黄瀬君のこと飽きちゃったの。」

「…え?」

困ったように笑いながら彼女がそう言い放った。

「私は,飽きて離して…また拾う系女子だから。」
「…は?」

戸惑う俺の横で意味ありげに笑う彼女。小さく息を吐きながら「さよなら」と呟いた。

2013.01.26
( ◎飽きて離して拾う系 krk/黄瀬涼太 )
最終的には戻ってきてよりを戻す系カップルだから。
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