fiction | ナノ
「高尾君,私の彼氏役して。」
「…いいけど。」

休憩時間,人が混み入る彼の教室にまで出向き,目的である彼の机の前で羞恥なくそう言い放つ私に,高尾君は一瞬「は?」と声には発さなかったものの顔を歪め,一拍間を開けてから上記の台詞をはいた。運良く,まあ居ても居なくても別に羞恥なんてなかったが周りには人は居らず,高尾君の隣で本を読んでいた緑間君も,一瞬本から顔を上げたもののそれ以上の反応は見せなかった。

「じゃあ今週の土曜日開けておいてほしいんだけど。」
「あー,うん。多分おっけー。」
「それなら,土曜日の13時に学校の校門前待ち合わせで。もし都合が合わなかったときは悪いけど私のクラスに来てもらってもいい?」
「わかった。」

じゃあ,そう言い彼のクラスから出る私に軽く手を振る彼を見ながら一礼し,扉を閉めた。

∞ ∞ ∞

土曜日,私は13時ぴったりに着くことを心がけて家を出て,待ち合わせ場所の学校に着いたのはぴったりの13時。先に来ていた彼にごめん,と一言謝って,今日の経緯について話し始める。

「彼氏役になって,告白を一緒に断ってくれと?」
「うん。ざっくり言えば。」
「…一日デート,とかじゃなかったんだ。」
「ん,何か言った?」
「いーや,なんでも。」

勿論,彼の言い放った言葉は一字一句狂うことなく聞き取れた。しかしここで「ごめんねー」なんて軽率な言葉を放ち,もし,もしも少しでも好意を持たれてしまったら困るのだ。

「あ,それと彼氏役だからって手とかは繋がないでほしい。」
「…注文多いなあ。」
「ごめんなさい。」

ここで「あとでお礼するから」なんて言ったら変に好意があるかと思われて,後で面倒くさくなる確率も低くはない。謝る私を見て高尾君が溜息をついた。

「あのさあ,これから彼氏役するってなってんのに,そんなに冷たくされたら俺やる気失せるんだけど。」
「…ごめんなさい。」

だって,思わず口に出そうになったがなんとかおさえる。私を見つめる彼からぎこちなく首を動かして視線を逸らすと,またもや溜息をつかれ少しむっときたが彼が先に折れてくれた。

「ここ出て近くのレストランで待ち合わせだっけ?早く行こーぜ。ほら…あ,あー…間違えた。」

そう言いながら彼は,「ほら」に合わせて出していた手を引っ込めた。…言った矢先に,と思っている自分も,危うく流れにつられたのかその手に自身の手をのせてしまうところだった。

2013.01.26
( ◎女嫌い krk/高尾和成 )
結構続く
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