fiction | ナノ
「火神君それ食べさせてくれ。」
「あー?面倒くせー。」
「いいじゃん,減るもんじゃないし。」
「確実に減るわ!」

名前の細い指が俺が食べている肉まんを指した。その横では黒子が楽しそうに,静かに笑っている。

「火神君も欲張りですね。」
「そうだ,少しぐらいいーじゃん。」
「…仕方ねーな,少しだけだぞ。」

ぐちぐちとうるさい名前の前に肉まんをかざすと,黙って首を振られてしまった。

「あ?なんだ食わねえのか?」
「いや,食べる。けど。」

そう言った名前は静かに,人差し指で自分の唇を指した。

「…お前,口まで運んでやらねーと食えねえのかよ…。」
「違うよ。こう,恋人らしいことがやりたくなったの。」

…恋人か。名前の横にいる黒子を見ると,微笑ましそうに笑っている笑顔とは裏腹に,何処か恨めしそうに見えるのは気のせいだろうか。…いや,気のせいじゃなかった。

「俺はいいけど,黒子は…。」
「僕がどうかしました?僕の心配とかいらないんで。」
「…いや,なんでもねーよ。」

白々しく,涼しい顔をしながら俺のことを見つめる黒子に内心,嘘つくなよと毒づきながらも仕方なく,ほんと仕方なく名前の口元へと肉まんを持って行ってやる。

「おー,美味しいねこれ。全部食べていい?」
「なわけあるか,一口にしろ。」
「…僕だったらあげてますけどね。」

…黒子お…。ぎしりと歯をならしながら黒子の方を見つめると,なんのことやらといった感じでそっぽを向かれてしまった。…羨ましいのか,今更か。

「…全部やるよ。」
「やった!」

小さなガッツポーズを作って喜ぶ名前を見て肉まんを全部取られてしまったことに不満はあるものの,ついつい頬が綻んでしまう。黒子の方を見るとやっぱり,俺と同じように笑っていた。…。

「…黒子,お前…流石に諦めたよな…?」
「さあ,まあ一応は,ですかね。」
「一応ってお前…すっぱり諦めるって言ってたじゃねーか!」
「黙ってください。名前さんもうるさいそうです。ね,名前さん。」
「…え,何?なんの話?」
「…ほんと駄目だこいつ…。」

けれどよく考えれば,鈍感でいてくれるからこそ黒子の気持ちに気付いてあたふたしてくれなくてすむ…ってことか?

2013.01.26
( ◎まだ狙ってます krk/火神・黒子 )
失恋=黒子→名前→←火神=恋人同士…みたいな。
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