銀色の髪の毛が視界の端で蠢く。その髪の毛が私の耳元で揺れて,とてもくすぐったい。くるりと目に映る背景が反転したのは,どうやらこの髪の毛の持ち主のせいだったようだ。果てさて,この状況をどう説明しようか迷うところだ。しかしこう呑気に考え事をしている暇ではないということぐらい,私にでも理解ができた。何故か私の首に回っている,ほどよく筋肉がついた腕。何かが私の後頭部に押さえつけられている。

「こんにちは初めましてそしてさようなら。」

早口で聞こえなかったが確かに私の耳にはそう届いた。ちょっと,赤い髪,助けてよ。頭の中で回ったその言葉は,口に出すこともなく消えて行く。さよなら私。さよなら赤髪の人。さよなら私を殺す銀髪の人。


きゅっと目を瞑る私の耳に,パァーンッという鋭い音が炸裂する。テレビでしか聞いたことがないその音に,現実味がないその音に,声もないのに終わりを告げられたような気がした。頭の中が真っ白になりそっと目を開ける。私は死んだのか。ここは死後の世界か。ゆっくりと首を動かすとそこには,悪戯っ子のようににひひと笑う銀髪がいた。
あれ,私死んでない。

「せーの…。」
「ハッピープリゾナー!」
「よろしく女囚人者。」
「…は?」

どういう意味?ぽかんとだらしなく口が開いた私を見下ろすようにして銀髪がまた笑った。

「サプライズパーティーだよ。」

サプライズ?後ろを振り返ればさっきまで居なかったはずの,この部屋の住人と見られる奴らが興味深げに私に視線を寄せていた。だんだんと落ち着いてきた頭にさっきまでの出来事が過ぎる。じゅ,銃は?私はこの銀髪に銃を頭に押し付けられて殺されたんじゃなかったのか。そして,ハッピープリゾナーってどういう意味なの?囚人になっておめでとうって事なの?

頭を抱えたくなるような出来事が起こり,落ち着き始めたはずがまた逆戻りだ。この現状の理解に苦しむ私の肩を,赤髪が面白そうにさすりながら呟いた。

「ただのサプライズパーティーだよ。君がここで上手くやっていく為に,ここはそんな怖い場所ではないんだと場を和らげてあげようという考えさ。」
「…さ,さっき私の頭に押し付けてきたのはなんだったの?」
「あー,これか?」

銀髪が可笑しそうに笑っている。彼の右手には何かの組立品か。手にちょうどよくフィットする大きさの棒きれがおさまっていた。

「ついでに言っとくと,音はこれ。」

逆の手に握られていたのはガラクタだった。銃の形にはほど遠いが,意味がわからない部分に引き金がついている。銀髪がそれを引き,さっきと同じ鋭い音が耳をつんざく。引いたり戻したり,それを繰り返す彼の頭を赤髪が叩いた。ざまあみろと心の中で毒付きながら彼に焦点を合わせると,ムッとしたようになんだよと返された。

「ガラクタ作るのが趣味な刑務官に貰ったんだよ。」
「パクったんだろ。」
「うるせ!」

「…それに…俺たち囚人がチャカなんて持たしてもらえるわけねーだろ。」

ああ,言われてみればそうだ。一人説得して頷いていると,急に横の扉が勢い良く音を立てて開いた。

「おいてめぇらなんださっきの音はぁ!」
「…げっ,宮地の鬼野郎。」
「あぁ?灰崎お前宮地刑務官とも言えねーのか!ちょっとこっち来いや。やったのもどうせてめぇだろ。」
「は?ふざけんなよおい!ちょ,赤司!」

私の横で清々しく行ってらっしゃいと手を振る赤髪に,「いいんですか?」と聞けばああと一言だけ返ってきた。彼が大丈夫と言えば大丈夫なのだろう。何処からか来る謎の安心感に委ね,取り敢えず銀髪はしばかれてしまえという思いが膨らむ中,刑務官に捕まっている灰崎だか煙崎だか呼ばれていた銀髪の彼が勢い良く私の方を振り向いた。

「畜生…てめぇのせーだ!」
「え,知りませんよ私。」

畜生畜生と雄叫びをあげながら部屋を去っていった彼を見送り,赤髪に体を向ける。

「あの,赤髪さん。」
「赤司でいい。」
「赤司さん。」
「何?」
「これから,よろしくお願いします。」
「ああ。」

最初は不安もあったものの,ここはなかなかやっていけそうな気がする。

top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -