世間が思っているほど,“ここ”は居心地が悪い所ではない。世間が思っているほど,“ここ”は怖い場所なんかではない。不安も寂しさも,彼らがいるお陰で忘れられるのなら,私はずっとここに居てもいいんじゃないかなんて思ってしまう。なーんて。




女,苗字名前は,狭い牢獄の中にいる自分ばかりイメージしていた。その中で,自虐的に笑いながら自身が持つありったけの力で地面を叩きつけるのだ。散々だ,散々だ。こんな世界終わってしまえ,と。

「着いたぞ。」

まだ20代前半であろう私と同い年ぐらいの若い男がお出迎えのごとくパトカーの扉を開けた。別に,大金持ちのお嬢様でもないんだ。もうそろそろ囚人と化す私にそこまでご奉仕しなくてもいいのに。心の中でそう毒づきながらパトカーから一歩外へと踏み出るとそこは,一見,現代的な合宿所のようにも見えるが正しくは刑務所。右手には広いグラウンドが広がっていて,ぽつぽつと草をむしっている囚人服を着た人々が伺えた。

「苗字名前です。」

先程の男が刑務所の中から出てきた別の男に向かいそう声をかける。私の説明なんていらないから,この手錠を早く外してくれないだろうか。ジャラジャラと煩い,神経にさわるその音が耳に残る。


息を吐いても吸っても,この夢のような世界からは覚めることはできない。どうして私がここに立っているんだろう。その答えは私自身がよく知っているものなのに,自分のした「悪いこと」にまだ悪いと実感できない私がいる。まあ,反省するためにこの豚箱にぶち込まれるわけだが。


「苗字名前です。」

そうデジャヴを感じながら刑務官に促されて私も一緒になって頭を下げる。すぐに目に飛び込んできた色は赤だった。灰色灰色,灰色ばかりのこの建物の中で,始めて鮮明な色というものを感じ取った。年期が入った壁には所々ヒビが入っている。外からの見た目と反して,中身は随分と古さを感じるところだった。

「よろしく。」

そう言い手を差し伸べてきた赤髪に,渋々といった形で手を差し伸べると強いような弱いような,中途半端な強さで手を握り締められなんとも言えぬ感じだ。取り敢えず,良い気分はしなかった。


「今日から一緒なルームメイトだから。」

支配者を連想されるような赤,存在感を強調させるような赤,鮮明な赤,その赤が深く私の脳裏に刻みつけられた。彼が自身の赤い髪をかきあげながらそう言った。ルームメイトという言葉はこの刑務所には全く当てはまらなくて,違和感があるその言葉に気を引かれ,大事なことを忘れていたが仕方がないと言ったら仕方がないのだろうか。囚人への配慮なんて所詮そんなものなのだろう。大人(になったばかりの青年)が性別の壁を越え同じ部屋で毎日を過ごす。あってもいいものかと疑いたくなるが思ったより配慮はしてあったみたいだ。

自身が日々過ごしていた部屋の,倍ほどの大きさはあるのだろうか。二段ベッドが1,2,3つ。私の他にも6人この部屋にいるということだろう。そして,向かって左手に見える白いカーテンで仕切られたスペースは,どうやら私のスペースらしい。ほほう,まあまあ気を使ってもらっているということなのか。

言われるがままに荷物を置きもう一度部屋を見回し,ある違和感を覚える。

「あの,他の人たちは」

そう言いかけて,目に写っていた背景がくるりと反転したのであった。

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