Day that love comes and crosses


「どうしたお前たち?随分と浮かない顔だな?」

兄上の昔話を長々と聞かされ、うんざりする俺とヴィオラに平然とそう言ってのける兄上。久しぶりに城に帰って来て俺を呼んだと思ったら、なんなんだこの状況は。兄上は進んで俺たちを呼び会話を楽しもうとするような人ではなかったはずだ。それが今は不思議とご機嫌な様子で昔話に耽っている。何を考えているのか、我が兄ながら掴めない人だ。時折り俺たちを見比べては怪しげに口角を上げる様子を見れば、何か思惑があるのは明確だが。隣に座るヴィオラは我慢の限界が来たのか、口を開いた。

「イザナ殿下。私もゼン殿下も暇なわけではないので、話がこれだけなら失礼させていただきます」
「まさか。俺が昔話なんてつまらないもののためにお前らを招くと思うか?」
「いえ、思いません。兄上、一体何をお考えで?」

ヴィオラの堅苦しい態度に、兄上が一瞬だけ険しい顔をしたのが分かった。すぐに戻ったそれにきっとヴィオラは気づいていないんだろう。俺たち兄弟がどれだけ彼女を大切に思っているか本人は知りもしない。どれだけ身分の差が広がろうとお前だけは変わらないでいてくれよという俺たち兄弟の思いを、ヴィオラは理解していないんだ。兄上とはそういった話をしたことはないが、見ていれば分かる。幼い頃、俺たちには見えない場所でヴィオラの居場所を守っていたのは兄上だ。

「お前とゼン、二人を呼んだなら分からないか?俺が何を言いたいか」
「…さあ。回りくどいこと言ってないで早くおっしゃってください」
「お前がその殿下の側近というつまらん仮面をとったらな」

ほら、俺の考えていたとおり。兄上はヴィオラが自分から距離を取ろうとするのを良しとしない。まるでさっきの俺と一緒じゃないか。ヴィオラは予想外の反応に、緊張が解けたように心底呆れた顔をした。

「分かったから、話は何です?」
「お前、可愛げがなくなったな」
「どうもありがとうございます」

一気に態度が悪くなったヴィオラに、兄上は嬉しがっているのか怒っているのか分からない。だが、空気が軽くなったのは確かだ。俺とヴィオラの間の空気は相変わらず、微妙な距離を保ってはいるが。その証拠に兄上の部屋に入ってから今まで、一度しか目が合っていない。理由なんて単純だ。俺がキスしたから、だろうな。

「お前らは最近どうなんだ」
「どう、とは?」
「いつまで主従関係を続ける気なんだと聞いている」

どこまで気づいてるんだ、兄上は。俺と目が合った兄上は不敵に笑った。まるで、いつまでもはっきりしない俺を蔑んでいるみたいだった。ここしかない。どうせ、さっき口づけをした時に伝えるつもりだった。

「俺は今すぐにでも終わらせたいと考えています。でも、側近として俺に尽くしてくれ、頼れるヴィオラを必要としないわけではありません」
「ゼン?何を言って…」
「剣を捨てて俺の隣に立てと言っても、お前は絶対に嫌がるだろう。だから、お前に剣は捨てさせない。でも、このままお前を側近という立場のままではいさせたくないんだ」
「ではどうする?」

前代未聞だ。戦う女を妻として隣に置く王族など聞いたことがない。だが、どうしてもどちらも失いたくない。剣を持ち俺に尽力することで自分自身に誇りを抱くヴィオラと、強く広い心で俺を癒してくれるヴィオラ。どっちも手に入れたいと思うんだ。

「俺は人生をお前と歩んで行きたい。これから俺が行く世界に、ヴィオラも連れて行く」
「私もそのつもりだよ。どこまでも付いて行くって、ずっと思ってて」
「それは側近としてだろう?俺はヴィオラという一人の女と、共にありたいと思ってるんだが」

兄上が満足げに足を組み、俺たちを見つめているのが分かった。はっきりしない俺に機会を設けてくれようとしたのか、兄上の真意は分からないけれど、きっと俺たちを心配してくれていたのだ。俺は兄上に頭を下げると、固まっているヴィオラの手を引いて部屋を出た。ヴィオラは瞳を潤ませ、頬をひどく赤く染めている。その女を感じさせる表情が、俺を煽るのに気づいているのか。いや、気づいているわけもないな。

「待ってゼン。とにかく、冷静になって…ゼンらしくないよ」
「伝わらなかったか?もっと分かりやすい形で伝えればいいか?さっきしたみたいに、ここに」

唇をなぞればヴィオラの体がぴくりと揺れた。ああだめだ、触れたくてたまらなくなる。唇だけでこんなに反応してくれるなら、この溢れる愛を全部注いだら彼女はどうなってしまうのだろう。ヴィオラの全部が見たい、知りたい。強く抱きしめて首筋に顔を埋めると、もう歯止めが効かなくなる。肩にかかるブロンドの髪を払いのけて、露わになった白い首筋に舌を這わせた。

「いや、ゼン。だめ!待って…っ」
「待てない」
「〜〜〜!!」
「好きだ。愛してる、ヴィオラ」

深く口づけた俺を、始めは懸命に拒んでいたヴィオラも次第に受け入れ始める。やっと口にできた気持ちに、俺は随分と高ぶっていた。何度も口づけを交わすと、ヴィオラが苦しそうに息を吐いた。離れた二人を繋ぐ糸が切れると同時、ヴィオラのアメジスト色の瞳が熱を帯びているのが分かった。

「私も…好きだ、ゼン」
「…ヴィオラ」
「あなたの世界に連れて行って」

なんて甘い口説き文句なんだ。君が望むならどこにだって、連れて行ってあげるよ。

ー ー ー ー ー
(まったく、手のかかるやつらだ)
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