Unexpected appearance of the great older brother


何が起きたのか分からなかった。視界が明るくなった時、ゼンが真剣な顔をして口を開きそうになったのが分かった。耐えられなかった。あの空気に、ゼンから伝わる緊張に。だから私はその場から逃げたんだ。ゼンの顔を見ずに手を振り解いて、必死になって逃げた。

「…はっ、はあっ」

ゼンは追いかけて来なかった。私は城内にいることも忘れて、はしたなく廊下に膝をついた。乱れる呼吸はたくさん走ったからじゃない。私は仮にも殿下の側近、体力には自信がある。この動悸は、ゼンにキスをされたから。

「そんなところで何をしてる?」

透き通る、優しいがどこか冷たく低い声。私は反射的に立ち上がり、振り返った。そして声の主を目に入れた瞬間、頭を下げる。冷静に行動できた自分に驚いた。幼い頃から染み付いた習慣だ。

「おかえりなさい、イザナ殿下」
「相変わらず堅いやつだ。久しぶりに可愛がってやろうと思っていたのに」
「私はもう18です」
「それでも俺にとっては幼い妹だよ」

ヴィオラと私の名を呼ぶイザナ殿下は、ゼン殿下と似ているその目元を少し緩めた。




私とゼンとイザナ殿下は兄弟のように育った。城内にはそれをよく思わない人ももちろんいて、幼い頃私に対する風当たりは強かったように思う。それもそうだ。私はまだその頃国王の側近の娘という立場でしかなかったのだから。いくら国王やその息子たちに気に入られているとはいえ、身分の違いは明確だった。幼い私に投げかけられる嫉妬や暴言から守ってくれていたのが、イザナ殿下だったんだ。いつだったかイザナ殿下に言われたことがある。

「お前は悔しくないのか。いつもいつも攻撃されてばかりで」
「…みんなの言う通りだと思う。私は、ゼンやイザナお兄ちゃんの近くにいちゃいけない子なんだ。私が、もっと強くて素晴らしい人だったら…」
「…そうか。ならば、剣を持て」

イザナ殿下は無茶苦茶な人だ。当時私はまだ10にも満たない子供だった。いきなり剣を持てと言われ、その翌日には私の部屋にイザナ殿下から細やかな装飾が施された剣が届いた。だけど、忘れない。その剣を持った時の感覚。不思議と私はきっとこの剣と共に生きていくんだと、そう感じた。

「イザナお兄ちゃん!私、剣士になります。そして、ゼンとお兄ちゃん二人を守る人になるの!」
「…そうか」

それは頼もしいと、笑ったイザナ殿下の顔がずっと忘れられないんだ。




カチャンと音を鳴らし、イザナ殿下がティーカップを置く。部屋は紅茶のいい香りで満たされていた。私はテーブルから少し離れた場所に立ち、イザナ殿下をじっと見つめる。

「いつまで立ってる。座れ」
「いえ、遠慮します」
「…強情なやつだ。ゼンに似たか」

はあ、とため息をつくイザナ殿下はなぜか少し嬉しそうだ。そして、私の腰の剣に目をやると驚いたように少し目を見開いた。

「その剣、まだ使っていたか」
「はい。私の始まりの剣ですから」
「いくら手入れしても古いものは古い。俺が新しいのを用意してやるから、それは捨てろ」
「嫌です!…大事なもの、です」

私が剣に手をやりイザナ殿下から距離を取ると、呆れたように目を伏せた。だって、尊敬する殿下から貰ったものだ。いくらボロボロになっても手放したくない。それに、剣が多少ダメになってもその分自分の腕を磨けば問題はない。そのための鍛錬ならかかさない。

「そうだ。お前に会う前にゼンにも会った。ここに呼んだから、そろそろ来るはずなんだが」
「え?!」
「…何か問題が?」
「い、いえ!何も!」
「そういえば、ゼンはお前を探してたみたいだったな…何かあったか?」

ニヤリと意地悪く笑うイザナ殿下。絶対何か感づいてるに決まってる。このお方は、そういう人だから。昔から。殿下が以前城から出る時に言われた言葉が今になって思い出される。

「”俺が次に帰ってくるとき、お前がゼンの側近のままだといいな”」
「!!」
「…俺の言った通りだろう?」
「失礼します、兄上」

コンコンと扉が叩かれた次の瞬間、その重圧な扉が開かれる。強張る体に、目の前の殿下はおもしろそうに笑う。扉がバタンと閉まっても、私は振り返れなかった。

「…ヴィオラ」
「待っていたぞゼン。二人とも早く座れ」
「兄上、その前に話が」
「あ!あの、やっぱり私また今度に」
「いいから、久しぶりに兄弟三人で仲良く語らおうじゃないか」

有無を言わさない笑顔と言葉。これだからこのお方は、怖いんだ。

ー ー ー ー ー
(なあ木々。ゼンとヴィオラを長い間見ないんだが何か知ってるか?)
(帰ってきてるんだよ、イザナ殿下)
(…ああ、なるほど)
(ミツヒデさん何すかその顔。主の兄さんってそんなやばいやつなんですか?)

イザナは二人が可愛いんです きっと
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