The day when amethyst communes with red


出会ってすぐに分かったゼンの想い人。ヴィオラさんを見るとき、ゼンの顔は特別優しくなる。それはヴィオラさんも同じで、二人が想い合ってることが分かった。そして、友人としてゼンと一緒に過ごしていくうちに、ヴィオラさんにあまりいいように思われていないのにも気づいた。仲良くなりたい人にそう思われるのは辛いから、見かけたら積極的に話しかけるようにしていた。ヴィオラさんは私が話しかけると、いつも驚いたように目を丸くさせた後、恥ずかしそうに目尻を下げて笑うんだ。その表情が可愛らしくて、嫌われていないようでよかったと何度も安心した。

「ヴィオラは立場上、同じ年頃の友人が少ないんだ。何でも話せる女友達っていうのか…白雪にそうなってほしいと思う」

この国へ来て間もない頃、ゼンから言われた言葉。あいつは俺には弱味を見せたくないみたいだから、と少し悲しそうに笑うゼンが印象的だった。きっとヴィオラさんの何でも話せる相手になりたいのは、ゼン自身なんだろう。




「ヴィオラさん!」

リュウに頼まれた薬草を摘みに薬草園に来ると、色素の薄い綺麗なブロンドの髪が風に靡いていた。名前を呼べば、二つのアメジスト色の瞳がこちらを向く。初めて会った時から、息を飲むような美しい色だと思っていた。

「どうしたんですか?リュウに会いに?」
「ううん、ごめんなさい。少し考えたいことがあって…邪魔はしないから、もう少しここにいてもいいかな?」

どうぞと笑って、リュウに頼まれた薬草を探す。辺りを見回すと、ちょうどヴィオラさんが座り込んでいるところにその薬草を見つけた。ヴィオラさんに声をかけようとした時、ヴィオラさんの肩が震えているのに気づいた。

「ヴィオラさん!!」

思わず肩をつかんで、顔を合わせる。思ったとおり、ヴィオラさんの目からは涙が流れていた。ゼンの言ってたように、ヴィオラさんはいつもこうして一人で泣いてたんだ。誰にも吐き出すことをせずに。そんなのヴィオラさんもゼンも、かわいそうだ。

「ごめんなさい…何でもないから!」
「何でもなくなんかないでしょう。ゼンにもリュウにもミツヒデさん達にも誰にも言えないなら、私に言ってくださいよ。私…ヴィオラさんと仲良くなりたいんです」
「仲良く…」
「ここに来た時、ゼンに頼まれたことがあります。ヴィオラさんは一人で抱え込む性格だから、私に友達になってあげてほしいって。…でも、誰かに言われたからじゃありません。私はあなたと仲良くなりたい!」

思えば初めは私だって同じだった。知らない国に一人で来て、知り合いはゼンとミツヒデさんと木々さんだけ。同じ年頃のヴィオラさんの存在を知った瞬間、早く会って話してみたいと思った。剣術だけでなく周りを見る目にも優れていて、皆に気を配ることができる。そんなヴィオラさんを見て、私も頑張ろうと思えたことがあった。深く話し合ったことがなくても分かる。ヴィオラさんがどんなに素晴らしい人か。

「尊敬してるんです。ヴィオラさんは強いだけじゃなくて、協調性も大切にしてる。ゼンもよく言ってるんです。あいつが周りを見てくれてるから、俺は安心して前だけを見ていられるって」
「ゼンが、私のことを?」
「それだけじゃないですよ。ゼンは私といる時、ほとんどヴィオラさんの話しかしませんから。だから私、ヴィオラさんのことすごく詳しいんですよ?」
「私と話す時はいつも白雪さんのことばかりで…ゼン、すごく褒めてます。白雪さんが来てくれて助かってるって」
「きっとゼン、私たちに仲良くなってほしいんですね」

もしかして、ゼンのその遠回しな表現がヴィオラさんに誤解を生んでいたのかもしれない。ヴィオラさんの涙はいつの間にか止まって、頬にきらきらと涙の跡が残っているだけだった。ヴィオラさんは眉毛を下げて申し訳なさそうな顔をして、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

「私、白雪さんを避けてました。私がゼンを好きだから…ゼンが遠くに行ってしまうと思って。二人でいる所を、見たくなかったんです。ごめんなさい…」
「気づいてました。誤解を解きたかったけど、私が言うのも変かと思って言えなかった。それでも私が話しかけると絶対に無視せずに、笑って答えてくれるのが嬉しかったんです。私はゼンを尊敬してるし、ゼンの生き方が好きだ。だけど私とゼンの間に恋愛感情はないよ、お互いに。ヴィオラさん…私じゃあなたの本音を話せる友達になれませんか?」

ヴィオラさんの涙は止まったはずだったのに、また溢れてくる。ふるふると何度も頭を振るヴィオラさんは、いつもの冷静なヴィオラさんとは全然違う。まるで子供みたいに見えて、初めて見るその姿にじんわりと目頭が熱くなる。

「なれなく…ない。私も、白雪さんと仲良くしたい…!」

アメジストを潤ませて顔を真っ赤にしながら懸命に伝えてくれる。もしもこれがヴィオラさんの心からの本音なら、私はすごく嬉しい。

「私も…熱なんか出してないで、ゼン達と一緒にあなたに会いたかった。小さい頃からずっと一緒にいたゼンに、私の知らない所ですごく仲の良い女の子ができてたから。私、嫉妬してたんだ…っ」
「ヴィオラさん…」
「友達の作り方なんて分からなかったから、話しかけられずに逃げてた。私は最低な奴だ。ずっと、言いたかったの…。あなたの赤髪は、すごく綺麗だって」

私の頬を伝う涙はもらい泣きじゃない。ヴィオラさんの真っ直ぐな言葉が嬉しくてたまらなくて、感動して流れた涙だ。

「どうして白雪さんが泣くの?」
「だって…嬉しい!すごく!」
「…ありがとう、白雪」

そう言って笑ったヴィオラさんは、今まで見たどんな人よりも綺麗だった。

ー ー ー ー ー
(ゼン、友達ができた)
(…誰だ(男だったら許さん))
(白雪さん)
(あーヴィオラ!さっきは呼び捨てで呼んでくれたのに!どうして?)
(えっ…その、慣れなくて。慣れるまで、待ってくれる?…白雪)
(ヴィオラ、可愛い!嬉しい!)
((そんな照れた顔初めて見たぞ…!))

なんか負けた気がするゼン
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