I look away from dazzling red hair


ゼンは私の主だ。
ゼンは私の幼馴染だ。
ゼンは私の想い人だ。もうずっと前から。

「ヴィオラ、紹介する。この間お前が熱で寝込んでいた時にミツヒデと木々と城を抜け出した時に出会った白雪だ。客人として城に出入りできるようにしてあるから、今後も会うことがあるだろう」

綺麗な赤髪の人。隣には笑顔のゼン。私も快く笑い、挨拶するしかない空気だった。

「よろしく、白雪さん」




あの初めて会った時の挨拶から随分経った。白雪さんは現在宮廷薬剤師見習いとしてこの城にいる。実際に会う前に、ゼンから既に話は聞いてたんだ。白雪さんと出会ったその夜、熱で苦しむ私を看病しながら話してくれた。すごく嬉しそうな笑顔で、白雪は面白いやつだと。今日だってそう。さっきまで執務で部屋に篭っていたゼンは、白雪さんと二人でお話中だ。

「それでまたここに逃げてきたの?」
「うっ、聞かないでリュウ」

場内を散歩中、薬草園で揺れる黒髪を見つけて駆け寄ると、思ったとおりお友達のリュウだった。リュウが言うには、私は白雪さんが来るとよくここに逃げてくるらしい。完全に無意識だった。

「白雪さんといるゼンは見たくない」
「ふうん、おれはよくわからない」
「分からなくていいよ。リュウはまだ可愛い可愛い子供だもん」

私がこうやって子供扱いすると、リュウが少し嬉しそうに頬を緩めるのを知ってる。普通の子供なら子供扱いするなって怒るんだろうけど、リュウは違うんだ。そういうところが可愛くて、私はリュウが宮廷薬剤師として初めて城に来たときから仲良くしてもらっている。

「そろそろ行くよ。鍛錬の時間だ」
「うん。がんばって」
「リュウもね」

頭を撫でるとリュウのさらさらとした黒髪がするりと指をすり抜けていく。薬草園の向こうの方に赤髪の少女を見つけて、急いでその場を後にした。ゼンの側近であるため顔を合わせることは多いが、初めての挨拶以来まともに会話をしたことがない。今さらどう話していいのか、分からなくなってしまった。それに、彼女はゼンの。ぐるぐると考え込んでいると、廊下でばったりと主であるゼンと出会う。

「ただいま戻りました」
「どこ行ってたんだヴィオラ。白雪がお前に会いたがっていたぞ」
「いいよ。二人の邪魔はできない」

ゼンは、きっと彼女に惚れてるから。

「邪魔?何のことだ」
「無自覚なの?まあいいや。私鍛錬行ってくるから、ゼンは執務頑張って」

ゼンが背後で待てって言ってるのも無視して、歩くのを止めない。どうせゼンと話しても白雪さんのことばかりだ。そんなの聞きたくない。




「で?いつまでゼンと白雪のこと避けるつもり?」
「?!」

木々のその言葉に動揺し、反応が遅れたその瞬間、鋭い剣先が喉元に押し付けられる。私の負けだ。握りしめていた剣を捨て、両手を挙げて降参のポーズをする。

「その質問は意地悪だよ。木々」
「そう?最近ヴィオラがかまってくれないってゼンがうるさくて」
「嘘だね。ゼンはそんなこと言うようなやつじゃないよ。それに私なんていなくても、ゼンには白雪さんがいる」
「口にしてはいないけど感じるよ」

ゼンはヴィオラと話したいって思ってる。近くで私たちの手合わせを見物していたミツヒデがそう口を挟む。そんなの私だってそうだ。だけど、どうしても平気な顔をしてゼンと向き合うことができない。これがいつ平気になるかなんて、今の私には分からない。ゼンと白雪さんが結ばれる時が来たら、だろうか。

「ヴィオラ、ゼンに会いな」
「嫌だ。ゼンは白雪さんばかりだ」
「例えそうだとしても、私たちはゼンの側近だ。ゼンを支えるのが仕事。主を不安にさせていいわけない」

木々は言ってることは少し厳しいが、私の肩を抱き寄せ励ますように微笑んでくれた。ミツヒデは何も言わず眉間にしわを寄せている。ゼンだけでなく、私の気持ちを知ってるこの二人も困らせているんだ、私は。そう気付いた瞬間、ゼンに会わなくてはと思い、剣をその場に置いたまま走った。




「ゼン!!!」

ゼンは書類で溢れた執務室の机に顔をふせ、すやすやと眠っていた。部屋に入る時大声を出してしまったけれど起きてない。よっぽど熟睡してるんだ。それほど疲れているんだろう。私は寝ているゼンをそっとお姫様抱っこし、寝台へと運んだ。

「…ん」
「ゼン?」
「…ヴィオラ」

毛布をかけるとゼンが身じろいで私の名前を呼んだ。起きたのかと思ったが、違ったみたいだ。寝言で自分の名前を呼ばれることが、こんなに嬉しいなんて。

「ゼン、ごめんなさい」

恋心よりも、忠誠心を大切にしよう。私は側近、ゼンは主。今後一切この人を困らせることがないように。そう心に決めた日だった。

ー ー ー ー ー
(なあミツヒデ、木々。俺は無意識にヴィオラを怒らせるようなことをしてしまったんだろうか)
(どうしてそう思うんだ?)
(最近あいつが隣にいない気がして)
(そうだね。よく出かけてる)
(何だか調子が狂うな)

ヴィオラ、ちゃんとゼンを見てあげて

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