丘の上でのお茶会を終えた僕らは、これからカウンセリングのため病院に行くと言うリーザさんを送ることにした。先程のドクターの様子から、リーザさんを一人で病院に帰すのは心配だったのだ。何気ない雑談をしながら、病院までの道を三人で歩いていく。前を歩いていたリーザさんの足が止まり、顔を上げるといつのまにやら病院の入り口までたどり着いていた。

「送ってくれてありがとう」
「じゃあ、僕たちはこれで」
「楽しかった、ありがとう!」
「私こそ…今日は付き合ってくれてありがとう」

受け付けに向かうリーザさんをなまえと二人でじっと見送った。リーザさんの表情、吹っ切れた感じだった。今夜は墓地に現れないような気がする。そんなことを考えながら、安心してマザーとバーバのいる家まで帰ろうとしたとき。

「リーザ!」

廊下まで響き渡る程の大声。振り返ると、せわしなく歩いてきたドクターがリーザさんの腕をがっちりつかみ、半ば引きずるように診察室に連れていくのが見えた。それは、とても患者に対するものとは思えないほど強引で乱暴な態度だった。

「ちょっと行ってくる!」
「あ、なまえ!」

走り出すなまえを追いかける。病院を出て建物の裏に回った。

「アレン、こっち!」

なまえが手招きする方へ行き部屋の中をのぞくと、ドクターとリーザさんは椅子に腰掛け何か話し合っている様子だった。窓は少し開いているため、耳を澄まさなくとも声は聞こえる。

「君たちはあんなに愛し合っていたじゃないか。彼にもう一度会いたくないのかい?」

ドクターはリーザさんの肩に手を置き言う。

「今ならそれが可能なんだよ!君は幸運なんだ!」

だんだんと熱のこもった口調になっていくドクター。外には丸聞こえだ。ふと隣のなまえを見ると、複雑な感情に顔を歪めていた。手を握ると、なまえは一度体をびくっと反応させると黙って僕の手を握り返した。

「愛しい彼に会えるんだよ?彼の声を聞きたくないのかい?笑顔を向けてほしいだろう?きっと彼も君に会いたいはずだ!」
「彼が…私に…」

リーザさんがぽつりとつぶやくとドクターは力強く頷いた。

「そう!彼はとても君を愛していた。すごく君に会いたがってるよ!彼の願いを叶えてあげたくはないのかい?」

僕は信じられないという目でドクターを見つめる。あの墓地での思いやりに満ちた言葉や、優しげな態度は表向きのものらしい。

「(ドクターはリーザさんに何をさせようとしてるんだ?)」

そんな疑問を頭に浮かべながらも、二人の会話を聞き続ける。

「もう準備はできているんだ。あとは電話で予約をして、君が彼の魂を呼び戻す手伝いをしてくれれば…」

ドクターが大きく手を広げ、大きな声で熱っぽい口調で言う。

「なんとすばらしい!彼は生き返るんだよ!!」
「(なんだって…?)」

僕は耳を疑い、それと同時にすべてを理解した。

「(そうか、そういうことか。じゃああの電話の相手は…)」
「アレン」

すべてに気づいた様子のなまえが信じられないというような目を向けてくる。僕はそれに上手く答えてあげることができず、ただ握る手に力を込めた。

「会いたい…死ぬほど会いたい……」

その時、部屋の中からそんな声が聞こえた。その声はあまりにも悲愴で、心が切り裂かれたかのように痛んだ。僕はなまえの手を握っていない方の右手でそっと顔の半分に走る傷を撫でた。

"会いたい。マナに会いたい―"

三年前の自分の声が蘇る。僕は強く拳を握り締めた。そんな僕の右手を包み込むように触れるなまえの両手。

「(なまえにはお見通しだな)…ありがとう、なまえ」

僕が微笑んでお礼を言うと、なまえは嬉しそうに笑った。そして、気持ちが少し落ち着いたところで再び部屋の中に意識を集中させる。

「じゃあ、さっそく電話を」
「でも」

顔をぱっと輝かせ受話器に手をかけたドクターの声をさえぎるようにリーザさんは言った。

「会いたいけれど……でも、生き返らなくていいんです」

弱々しいが、強い意思のこもった声。その瞬間、ドクターの顔が怒りと苛立ちに満ちたものへと一変した。さっきまでとは別人、その目は冷たくリーザさんを見つめている。

「もう限界だ!お前の同意なんてどうでもいい!もうずいぶん"あの方"を待たしちまってるんだ!暗示にでもかけて、無理にでも協力させてやる!」

ドクターはそう叫びながらリーザさんの口元を布で覆う。リーザさんは布にしみこませてあった薬のせいか、目が虚ろになりやがて崩れるようにベッドに倒れこんだ。

「もう我慢できない」
「なまえはリーザさんをお願いします」

静かな怒りを胸に地を蹴った。

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -